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Rd.08 カナダGP

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ケベコワ

2005年6月10日

カナダGPに出発する前日、各チームから送られてくるFAXやメールによるリリースを読むと、ドライバーたちがみなモントリオールの街に対して好感を持っていることにあらためて気がついた。確かにトゥルーリが言うように「6月のモントリオールは過ごしやすい」し、「F1を両手を広げて歓迎してくれる」と言うR・シューマッハのモントリオール評は正しい視点である。なにより、モントリオールの人々(モントリオールはケベックに属するので、ケベコワと呼ばれている)は、温かくF1グランプリを迎えてくれる。

ここモントリオールで行われるカナダGPは、オーストラリアGPが行われるメルボルン、そしてモナコGP同様、街中で開催されるグランプリである。ジャック・ビルヌーブがオーナーを務めるレストラン『New Town』があるクレセント通りはグランプリ期間中は歩行者天国となり、週末は毎日夜遅くまでさまざまなイベントで盛り上がり、ドライバーが宿泊するホテルの前にはいつも大勢のファンが押し寄せる。

サーキットは、そんな街中から地下鉄で1駅のところにある。大勢の観客が木曜日からサーキットに詰めかけ、主催者側も駅からもっとも近いサーキットの入口からパドックまで送迎するバスを手配。コース上を観客を乗せて走行するサービスを行っていた(写真右)。

そんな素晴らしい環境でホームグランプリを迎えることができるビルヌーブは、つくづく幸せだと思う。確かに今年の彼はチャンピオンを獲得した97年のような輝きが見えなくなってきたことは否めない。しかし、2年ぶりにホームグランプリを迎えるチャンスをもらったチームに対して、彼は批判はしない。「チーム代表との確執で、放出されるのでは?」とウワサされる中で始まった共同記者会見で彼は、次のようにコメントした。

「ザウバーに加入したことを後悔していませんか」(あるイギリス人ジャーナリスト)

「全然。今年のザウバーはミシュランにタイヤをスイッチしたために、低迷しているんだ。シーズン終盤には持ち直して、来年はきっといい年になる。第一、家でテレビを見ているより、レースがやれるだけ幸せだと思わなきゃ」(ビルヌーブ)

サーキット・ジル・ビルヌーブ――父の名が冠されたサーキットを走ることができるのは彼だけ。ケベコワの誇りである。

真夏日

2005年6月11日

暑い! ひとりっきりになったプレスルームを最後に出たのが金曜日の夜11時12分。その時点でFIAのモニターで気温は23℃、湿度は78%あった。ほとんど熱帯夜である。日中も最高気温は30℃を超えていたから、真夏日。今日はちょっとバテた。しかも、モントリオールのプレスルームはイモラと並んで、世界最小。さらに冷房が故障していて効きが悪く、暑さと汗くささでみんな仕事がはかどらない様子だった。

暑いのはボクたちメディアだけではない。ここモントリオールは、ブレーキが全19戦中、もっともきついサーキットに属する。ブレーキディスクはカーボンファイバーでできており(写真右)、運動エネルギーを熱エネルギーに変えることで減速させるわけだが、しっかりと冷却しないと、炭素繊維であるカーボンはあっという間にすり減ってなくなってしまう。

さらに高速で走る区間が多いため、タイヤの発熱量も高く、毎年モントリオールではブリスターを発生させるクルマが多い。特に今年は路面が再舗装されて表面が黒くなったため、気温に比べて路面温度が高くなる傾向にある。前戦はフラットスポットに悩まされたドライバーがいたが、今回はブリスターによって、レース終盤にドラマが生まれるかもしれない。

いずれにしても、暑いグランプリで悲鳴をあげるのは、人間だけではないのである。1月生まれのTF105がどれだけ我慢強いマシンか、8月生まれですでにバテているボクにとっては、それがとても楽しみでもあり、気になるところである。

我慢

2005年6月12日

「午前中のことを考えれば、今日の予選結果には満足している。確かにアウトラップでタイヤを十分に温めきれず、フライングラップでは思うようなグリップ力を得られなかったけれどね」

9番手に終わった予選をヤルノ・トゥルーリはそう冷静に分析した。じつはこの日、ボクはトラブルが発生した午前中のフリー走行で、じっと待機しているトゥルーリをガレージ内で見ていた。外気温がすでに27℃に達していた午前中、ガレージ内は30℃以上はあったはずである。メカニックたちは汗でシャツをずぶ濡れにしながらギアボックスを交換するものの作業が遅れ、ついにはTカーの準備まで開始していた(写真中)。

それでも、トゥルーリはマシンに乗ったまま、ヘルメットも脱がず、ただひたすらマシンの回復を待った。30℃以上もあるであろうコックピットの中で。しかも、彼はその間、作業の様子に目をやるわけでもなく、レースエンジニアに無線で作業の進捗状況を確認するわけでもなく、静かに作業が終わるのをじっと待っていたのである(写真左)。自分が焦る姿を見せれば、メカニックが慌てることを彼は知っているのである。

なんとか、レースカーでセッション終盤にコースインしたものの、トゥルーリのマシンは今度は電気系のトラブルからセンサーに異常を発生し、ピットレーンで止まってしまう。ダッシュするメカニックたち(写真右)。しかし、このときもトゥルーリはマシンを降りなかった。

一発が速く、陽気なイタリアンというイメージが強いトゥルーリだが、耐えるときはじっと我慢することも9年間のF1生活でしっかりと身につけている。その冷静なトゥルーリは日曜日のレースを次のように分析した。

「ここではグリッドポジションが、レースで大きく変わることは珍しくない。レースに向けて、いいセットアップができたと思うし、レース戦略にも自信がある」

テレメトリー

2005年6月13日

1回目のピットストップ直後から、トゥルーリのマシンにトラブルが発生する。それは彼がリタイアする直接の原因となったブレーキではなく、マシンの走行データをピットに送るテレメトリーシステムだった。

現在のF1のテレメトリーシステムは、走行中に刻々と送られてくるリアルタイム通信と、ピット前を通過するときに1周分をまとめて送信するバースト送信の2系統がある。どちらの系統も同じデータを送信するもので、トンネルや森の影に入ったときにリアルタイム通信ではどうしてもデータが歯抜けになってしまうため、それをバースト送信でカバーするのである。

今回発生したトラブルは、トゥルーリのマシンに搭載されている送信機の故障だったため、リアルタイム送信、バースト送信のいずれもが機能しなくなってしまった。

もちろん、テレメトリーシステムが故障しても、マシンが走行するうえにおいて問題はなく、現にトゥルーリは終盤3番手までポジションを上げている。では、なぜテレメトリーが大切なのかというと、走行中、マシンは常に安定した状態で走っているわけではないからだ。そして、それらの情報がテレメトリーでピットに伝えられていれば、ピットからドライバーに無線でさまざまな対処法が指示できるというわけだ。

特にこのモントリオールはブレーキがつらいサーキットである。フロントブレーキの温度や摩耗状況を把握できていれば、ブレーキがいきなりブロウする前に、なんらかの処置はできたはずである。2年前にミハエル・シューマッハ(フェラーリ)が勝利したときも、序盤からブレーキの温度が上がりすぎていたため、ピットからブレーキをいたわるよう指示が飛んでいたことは有名な話である。

「最終的には右フロントのブレーキディスクが砕け散ったわけですが、あのような状態になるということは、ブレーキディスクの温度が異常に高温になっていたことが考えられます。だったら、もう少しエンジンブレーキを利かすとか、ハードブレーキングを避けるとか、ブレーキをいたわる手段をトゥルーリに早めに伝えられたはずなんです」(高橋敬三テクニカルコーディネーション担当ディレクター)

いまクルマに何が起きているのかわからない状況で3番手を走行していたトゥルーリ(写真右)のブレーキディスク破損は、予兆なく突然襲ってきたという。いまはただその不幸が比較的安全な状態で発生し、トゥルーリになんのダメージもなかったことを、幸いだったと考えた方がいいかもしれない(写真左/リタイアしてピットへ向かうトゥルーリ)。