GF016便
2006年3月10日


木曜日朝、チーム関係者で一番最後にTMGを出発し、バーレーンへ向かったのは3人。ひとりは車両デザイン及び開発ゼネラル・マネージャーのパスカル・バセロン。もうひとりはエンジン担当テクニカル・ディレクターのルカ・マルモリーニ。そして3人目はTMG副社長の木下美明だった。空港へ行く前にファクトリーへ寄った3人には、ある任務が待っていた。それは、レースで使用する最後の部品をサーキットへ運ぶことだった。
ファクトリーに立ち寄り自分たちが用意したスーツケースとは別に、8個のスーツケースを持って、空港へ向かった3人。チェックインして荷物を測ると、スーツケースの総重量は350kgにも達していた。木下TMG副社長らが運ぼうとしていたスーツケースの中には、バラストがぎっしりと積み込まれていたのである。バーレーンGPのタイトルスポンサーでもあるガルフ航空のGF016便に乗った3人は、3月9日の夜7時15分にマナマに到着。空港で待っていたスタッフに8個のスーツケースが渡され、バラストは無事サーキットで待っているTF106に搭載された(写真左/木下TMG副社長らが搭乗したGF016便と同型のガルフ航空機)。
「現在のF1はいかにタイムロスなく開発したものを投入できるかが勝負。だから、クルマは常に本番に間に合うギリギリのタイミングでアップデートされるんです。2月中旬に投入された新しい空力パッケージも、完成したのはテスト直前の土日。その後、月曜日にサーキットへ向けて運搬されて、火曜日からテストを行った。だから、ファクトリーで24時間365日休みなく仕事をしていない限り、チームスタッフですら最新型のパーツすべて見ることはできないんですよ。例えば、土日を休んでいた私が最新型の空力パッケージを見たのは、インターネットでのテスト情報だったくらいですから」(木下TMG副社長)
このバーレーンにもパナソニック・トヨタ・レーシングは、2月にテストしたフロントウイングとは異なるスペックを持ち込んできた(写真右)。終わりのない開発による戦いがいよいよ今年も開幕した。
次回、GP Diaryは3月11日に更新の予定です。
お楽しみに。
先が見えない
2006年3月11日

土曜日のバーレーン・インターナショナル・サーキットのパドック。砂嵐だけでなく、湿度も50%と前日までの15%前後から急激に上がっている

ちなみにこちらが金曜日のバーレーン・インターナショナル・サーキットのパドック。正面のタワーがクリアに見える
F1の開幕戦は今年、バーレーンがその舞台となった。これまで96年から10年間はオーストラリア・メルボルンで行われてきたから、今年はいつもと感覚が違う。オーストラリアの前は、ブラジルが開幕戦のホストを務めていて、その前は南アフリカ。アメリカ(フェニックス)で開幕した年もあった。いずれにしても、ヨーロッパ文化の象徴であるF1は、その開幕戦の舞台をヨーロッパ以外の諸国に譲ってきたことになる。
その理由には、F1が開幕する春先のヨーロッパがまだ寒いということが挙げられるが、それだけが理由でないことは、ウインターテストの舞台がスペインだということが如実に物語っている。十数戦で争われるF1グランプリは先が長い。最近でこそ、どのチームもニューマシンを開幕戦までに用意するようになったが、ちょっと前までは序盤戦には前年型のマシンを改良したマシンを使用するというのがほとんど。昨年だって、フェラーリが新車を投入したのは、3戦目だった。メインイベントは新車が出そろった後の4月以降。ヨーロッパ・ラウンドの緒戦が4月末に設定されているのは、そんな理由もある。
だからといって、開幕戦がつまらないかというと、そういうことはない。新車ではない――つまり、クルマが暫定型ということで、信頼性をはじめ不確定要素が大きい序盤戦は何が起きるかわからず、これまでもさまざまなドラマを演出してきた。トヨタがF1にデビューした2002年も、マシンの信頼性とは直接の関係がないものの、スタート直後のアクシデントで大波乱のレースとなった。
土曜日のバーレーン・インターナショナル・サーキットは、朝から砂ぼこりが立ちこめる生憎のコンディション。波乱の予感が漂う2日目のバーレーンGPである。
次回、GP Diaryは3月12日に更新の予定です。
お楽しみに。
ノックアウト
2006年3月12日

新しい予選システムというのは、何が起きるかわからないという点ではエキサイティングだけれど、新しいシステムというのがどのようなもので、そしてそれを各チームがどのように運用していくか(あるいは、したのか)を、しっかりと把握しないと、そのおもしろさがボヤけてしまう。
土曜日の予選で、パナソニック・トヨタ・レーシングの2台は不運にも最終セッションを前に、そろって姿を消してしまった。この件に関しては、明日3月13日のGP Diaryで触れるとして、今日は新しい予選をライバルたちがどのようにして戦い、そしてレースへ臨もうとしているのかをお伝えしようと思う。
まず、第1セッションと第2セッションは、チェッカーフラッグが振られた時点でセッションは終了となる。これまではチェッカーが振られる直前までにコントロールラインを通過したラップまでカウントされたが、次のセッションまでのインターバルがわずか5分間しかないため、チェッカーを受けたドライバーはそのままピットインしなければならない。最終コーナーを回って、「さあ、タイムは更新するのか?」と期待して見ていたら、そのままピットインしてしまい拍子抜けした方もいるだろう。次回からは、この点に注意して、最初の2つのセッションを観戦してほしい。
そして、最終セッションである。バーレーンGPの開幕直前の木曜日に行われたチームマネージャー・ミーティングで、次のようなことが決定されていた。それは最終セッションに駒を進めたドライバーの燃料は、最終セッションで周回したラップ数にFIAが定めた2.75kg/周を掛けたものを予選後に注ぎ足すというものだった。
ただし、あまりノロノロとは走らせないよう、FIAは110%ルールというものを設けて、ポールポジションタイムから110%を超えるタイムで走行した遅い周回は、燃料補給ラップとしてカウントしないことで各チームと合意した。今回のポールポジションタイムは1分31秒431。つまり、1分40秒574以下のタイムで走行した周回は無駄になるというわけだ。じつはポールポジションを獲得したミハエル・シューマッハ(フェラーリ)は、2回目のアタックに入る前の周回で110%を超えたため、1周分少ない燃料をレースに向けて搭載して、スタートを切ることになった。予選5番手のファン・パブロ・モントーヤ(マクラーレン)に至っては、110%以下のラップが2周あり、最終セッションで12周走ったにもかかわらず、10周分の燃料搭載しか許されなかった。
さらに週末を通して使用が許されている7セットのタイヤのうち、レース時に何セットをニュータイヤとしてキープできているかだ。ウワサでは、最終セッションで2回アタックしたフェラーリには、1セットしかニュータイヤは残っていなかったという。ならば、2回目以降のピットストップ時にどのようなタイヤを履くのか。
この続きは、また来週としよう。
次回、GP Diaryは3月13日に更新の予定です。
お楽しみに。
3月12日付けのGP Diaryで110%ルールの説明について、原稿作成時点では主催者からの説明が不足していたことなどから、誤った解釈をしたまま情報をお伝えしていました。
お詫びと訂正をいたします。110%ルールにつきましては、3月24日付けのGP Diary「お詫びと訂正」をご覧ください。
適正温度
2006年3月13日

写真と本文とは関係ありません。

「悔しいとか、そういうレベルではなく、はらわたが煮えくり返っている」
予選後、パナソニック・トヨタ・レーシングのあるチーム関係者に終わったばかりの予選について尋ねると、そんな言葉が返ってきた。そして、こう続けた。
「頭に来ているのは、ラルフ(・シューマッハ)が予選の第1セッションで渋滞に引っかかって17番手に終わったからではない。あれがなくても、どのみちラルフもヤルノ(・トゥルーリ)同様、第2セッションで落ちていたでしょう。午前中のフリー走行もトゥルーリのベストは1分33秒台。今日のTF106は、1分33秒台が限界だった」
トゥルーリの予選タイムは1分33秒066。4人が1分31秒台を叩き出し、9人が1分32秒台を記録し、予想通り激戦となった第2セッションを乗り切るだけのスピードが、バーレーンでのTF106にはなかった。
なぜ、TF106はバーレーンで失速したのか。
「タイヤの温度を適正の数値まで上げられなかった」
どういうことか。
「いまF1のタイヤは、ブリヂストンもミシュランも、パフォーマンスレベルは高くするため、ある限られた温度レンジでしか、そのパフォーマンスを引き出せない傾向にある。そのターゲット温度にわれわれはどうしても到達できない」
この場合のタイヤの温度とは、タイヤウォーマーで温められているときの温度を差しているのではない。走行中の温度だ。バーレーンでのTF106には、これが数℃足りなかった。この問題はウインターテストでも見られた現象だが、それはヨーロッパの寒い天候が大きく影響していたためで、暑いバーレーンではそれが克服されると予想されていた。ところが、バーレーンに来ても、結局この課題はクリアできなかった。そして、その原因が週末を通してつかめなかったのである。
「ダウンフォースが足りないとか、そういうことではない。タイヤへの負荷のかけ方に何か問題があるのかもしれない。例えば、キャスター角をもっとつけるとか……」
今回のトヨタの不振には、タイヤを供給しているブリヂストンも「想定外の結果」と首をかしげ、「今後はタイヤそのものの供給だけでなく、キャンバー、トー、キャスター角などの調整にも踏み込んで協力を行っていきたい」と語った。
誰もが心躍る開幕戦。しかし、予選で厳しい現実に直面したチームは、日曜日のレースを、原因解明のためのテスト走行と位置づけ、2台に異なるピットストップ戦略を与えて、スターティンググリッドに送った。燃料搭載量を変えることで、より多くのデータを収集するためだ。したがって、決勝レースの14位と16位は、いまのパナソニック・トヨタ・レーシングの力を正確に反映させたものではないかもしれない。だが、リザルトはリザルト。これは夢ではなく、現実なのである。
このような結果に終わり、悲願の初優勝を願ってパナソニック・トヨタ・レーシングの5年目の開幕戦を待っていた多くのファンは、大きく落胆していることだろう。だが、一番落ち込んでいたのは、バーレーンにいたパナソニック・トヨタ・レーシングのスタッフである。
いまは思い切り悔しがってほしい。それが、復活へのバネとなるのだから……。
次回、GP Diaryは3月17日に更新の予定です。
お楽しみに。
3月13日「適正温度」公開時の文章に、一部不適切な表現がありましたので、修正のうえ差し替えました。ご了承ください。