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Rd.07 モナコGP

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微変更

2006年5月25日

Bスペックを初めて、生で見た。

前戦スペインGPのGP Diaryでも触れたように、合同テストで走らせていたTF106Bの写真をすでに見ていたため、ガレージに収められていた3台のBスペック、TF106/6号車、7号車、8号車を見ての驚きは、これまで見てきたBスペックほど大きくはなかった。

エアロダイナミクス的には、ハイダウンフォースのモナコ仕様にいくつかエキストラウイングを装着しているものの、基本的な空力パッケージはTF106と同じである。サスペンションもモノコック側面に直づけされた点においては、これまでのクルマと変わりはない。フロントバルクヘッドの下に、コブのように出っ張ったキールがなくなった新しいモノコックも予想していたとおり。もうひとつの違いであるプッシュロッドの立ち上がり角度も、モノコック側の取り付け部分にできた小さなコブがなければ、気がつかない。

しかし、これを持って、TF106Bが「それほど大きな改良を施すことができなかったクルマ」だと決めつけるのは尚早だと思う。確かに今回発表されたBスペックは変更が小さなクルマである。しかし、それは「改良できなかった」のではなく、「それほど大きく改良する必要がなかった」からではないのだろうか。

そう思ったのも、「この程度の変更なら、開幕戦から投入できたのではないか」というボクの質問に対する、新居章年テクニカルコーディネーション担当ディレクターの答えを聞いたとき、納得できたからだ。

「確かにこの程度の変更なら、やろうと思えば、新車発表の時期を1カ月遅らせて2月ぐらいに設定すればできていたかもしれません。しかし、それは結果論です。2月に新車を発表しようと思えば、昨年末にはコンセプトを決定しなければなりませんが、われわれにはまだその時期、ブリヂストン・タイヤの走行データがほとんどありませんでした。結局、ウインターテストを通じて、ブリヂストンのタイヤで走行しても大きな変更を加える必要がなかったことを学んだわけですが、それを、あの時期に判断することは、あまりにもリスキーでした」

要するに、TF106Bの微少な変更は、TF106の素性が悪くなかったということの裏返しなのかもしれない。もちろん、その評価を下すのは、ボクではなく、モナコでのTF106Bの走りそのものである。

だから、今回のBスペックを見たときの驚きは、過去何回かのBスペック登場時に比べれば大きくなかった。しかし、そのBスペックがどんな走りを披露してくれるのだろうという期待感は、これまでのどのBスペックよりも大きいのである。

次回、GP Diaryは5月27日に更新の予定です。お楽しみに。

第1ピリオド

2006年5月27日

「モナコでクリアラップを見つけるのは、本当に難しい。常にだれかがコース上にいるんだ。特に今年は22台に増えたからね。第1ピリオドと第2ピリオドでクリアラップを取ることは、事実上不可能だと思うよ」

2004年のモナコ・ウィナーであるヤルノ・トゥルーリは、今年のモナコGPの予選の難しさを、そう説明した。

抜き所がないモナコでは、予選ポジションがどのグランプリよりも重要である。昨年まで3年間、F1ではワンアタック予選が施行されていたため、モナコの予選で渋滞することはなかった。しかし今年、ワンアタック予選が廃止され、F1の予選はノックアウト方式に変更された。第1ピリオドでは15分間で22台が1回以上のアタックを行い、第2ピリオドでも15分間という短いセッションの中で、16台がコンマ数秒の戦いを演じる。

つまり、予選でもっともクリアラップが取れないグランプリとして、4年前の2002年まで、「レースよりもエキサイティング」と言われてきたモナコの予選は、今年さらにヒートアップすることは間違いないのである。

モナコでは、いかにクルマを早く仕上げて走らせるかではなく、いかに速いラップを刻むことができるかをマネージメントすることが大切。そして、それはドライバーの判断にかかってくる。ニュータイヤをどこでどのタイミングで投入するのか。ニュータイヤを履いて1回のみアタックするのか、2周連続アタックを行うのか。ほかのパーマネントサーキットとは異なる判断が必要となることが予想されるモナコ。こんなところにも、われわれがモナコをドライバーズ・サーキットと呼ぶ理由がある。

ノックアウト方式で行われる初めてのモナコの予選。どんな波乱が待っているのだろうか。

次回、GP Diaryは5月28日に更新の予定です。お楽しみに。

疑惑

2006年5月28日

まるで、2001年のA1リンクで、チームオーダーによって順位を入れ替えた直後の記者会見と同じ雰囲気だった。今回、モナコGPの予選終了後の記者会見で、最初に質問したのはあのときと同じフランス・レキップ紙の女性記者だった。

レキップ紙「予選後に何人かのドライバーと話をしたら、『あの行為には、何か疑惑を感じざるを得ない』と言っていました。もし、それが本当なら、とても残念な結果だったと言わざるを得ませんが……」

M・シューマッハ「その話が真実なら、それは寂しいよ、本当に。でも、この世界には自分のことを信じる者と、そうでない者がいる。残念なことだが……」

レキップ紙「私はこの結果をとても残念に思います」

M・シューマッハ「私も、(そう思われていることが)残念でならない」

一瞬の沈黙の後、イギリス人ジャーナリストがM・シューマッハの隣に座っていたアロンソにこんな質問をした。

「あなたのM・シューマッハへの評価は、今日の一件で下がりましたか?」

アロンソは「僕には僕の意見がある。でも、今日ここでは話したくない」と言って、また沈黙に入った。

会見が終了してから、審議委員会はM・シューマッハと両チームのエンジニア、そしてフェラーリのクルマに搭載されているデータロガーを調査したFIAのデータ分析官を交えて、M・シューマッハが最終ピリオドでコース上に止まってしまった行為に対しての調査を開始。議論は8時間にも及び、結論が出たのは夜10時すぎだった。

「M・シューマッハが今日予選で行った、過度の異例とも思える踏み込みによるブレーキングを正当化する理由をわれわれは見つけることができなかった。この結果、審議委員会は今回最終コーナーでクルマが停止した行為はドライバーの故意だったという結論に至った。そして、スポーティングレギュレーションにより、M・シューマッハの予選タイムをすべて抹消し、最後尾からのスタートを命ずる」

これに対して、フェラーリ(写真下)は「確証もなく、M・シューマッハを有罪としたFIAの決定を不服とする」と声明を出すとともに、M・シューマッハのエンジンを交換し、ピットからスタートすることを決めた。

次回、GP Diaryは5月29日に更新の予定です。お楽しみに。

Bの悲劇

2006年5月29日

「ヤルノ、チェッカーフラッグまで、あと5周だ。クルマの調子はどうだ?」

「オッシ、すべては順調だよ。なんの問題もない」

ルーベンス・バリチェロのドライブスルー・ペナルティで3番手に繰り上がったヤルノ・トゥルーリが駆るTF106Bは、デビュー戦でいきなり表彰台に立つ勢いだった。残り5周となったところで、トゥルーリの担当レースエンジニアであるオッシ・オイカリネンは、トゥルーリに無線を飛ばして、クルマの確認を行った。トラブルの兆候がまったくなかったトゥルーリもまた、表彰台を確信したという。

しかし、無線交信を終えた直後、73周目のサン・デポーテで、トゥルーリのTF106Bはハイドロ系に突然不具合を生じ、シフトチェンジができなくなってしまう。まもなくして、すべての制御が不能になったトゥルーリは、ボー・リバージュの上り坂でクルマを止め、リタイアした。

ピットに帰ってきたトゥルーリの落胆は、それは並大抵のものではなかったという。なぜなら、トゥルーリはまだここまで、今年ポイントがないからである。今年だけではない。トゥルーリが最後にポイントを獲得したのは、昨年のイタリアGP。その翌戦のベルギーGPで他車に弾き飛ばされてクラッシュして以来、エンジンブロウやメカニカルトラブルなど考えられる、あらゆる悲運がトゥルーリに襲いかかっていた。

前戦スペインGPでの同士討ちで、もう厄は出尽くしたかと思ったが、モナコでもそれはトゥルーリの元へ訪れたのである。

しかし、これまでのレース後とは違って、トゥルーリがある手応えを感じていたことも確かだ。それはTF106Bが、これまでよりもドライブしやすく、ブリヂストンのタイヤをうまく使えるようになったと確認できたからである。

木下美明TMG副社長も実際にモナコでTF106Bの走りを見て、今回の投入が決して失敗ではなかったことを強調した。

「今回のBスペックはフロントのサスペンションの取り付け方を変更するためにモノコックを新しくしただけ。ダウンフォースを発生させるエアロダイナミクスの変更とは異なり、サスペンションの変更というのは、タイムには出にくい分野。今回のBスペックは、従来スペックよりも何秒速いかではなく、従来スペックが1周だけ刻めたベストタイムを、何度でも刻めるクルマにしたと考えてもらいたい。いわゆる、セッティングのスイートスポットが広がったんです。だから、モナコだけでなく、どのサーキットへ行っても、安定して速くなるでしょう」

モナコではR・シューマッハの1点に終わったTF106B。しかし、グランプリは今年まだ11戦ある。ヤルノよ、焦らないでほしい。結果は必ずついてくる。

次回、GP Diaryは6月2日に更新の予定です。お楽しみに。

guilty?

2006年6月2日

いろんな意見があると思う。

グランプリ関係者の間でも、M・シューマッハの停止が故意だったという見方をする者は少なくない。だから、処分は当然だと。

モナコGPの土曜日、夜10時。FIAからの事情聴取を終えたM・シューマッハは、フェラーリのモーターホーム前で記者会見を行った。そのときも、まだ審議委員会からの決定が出る前であったにもかかわらず、「あなたは自分で有罪だと思いますか」と質問する記者がいた。あのとき、多くのマスコミがM・シューマッハを有罪にしたがっていたことは確かだ。

しかし、「故意であったかどうかは、われわれが判断すべきではない」と、予選後に過熱していたマスコミを牽制する元F1ドライバーもいた。「故意だったかどうかは、神様とM・シューマッハ本人にしかわからない。もちろん、F1はスポーツであるから、われわれはルールに則って、下された決定には従わなければならない。しかし、ジャッジするのはあくまでそのルールを作ったFIAである」と。

M・シューマッハと長年仕事を共にしているブリヂストンの浜島裕英MSタイヤ開発室長は、こう語ったという。

「過去(94年のヒル、97年のビルヌーブとの接触)のは、故意だったかもしれないが、今回は故意じゃないと思う。だって、たとえポールポジションをアロンソに奪われていても、フロントロウからスタートしていれば、M・シューマッハには勝てる速さと戦略があったんだから」

確かに、日曜日のレースでM・シューマッハは1ストップ作戦に変更しながらも、レースではアロンソより速いファステストラップを記録した。その走りには、まるで「前日の予選で故意にクルマを止めてポールポジションを守らなくても、日曜日のレースでは充分に勝てる速さがあること」を証明したがっていたような、鬼気迫るものがあった。

M・シューマッハは言う。

「僕が有罪だとしたら、それはあのアタックでミスを犯してしまうほど、ブレーキングを遅らせてしまったことだ」

ボクもそう思うし、その言葉を信じたい。

次回、GP Diaryは6月9日に更新の予定です。お楽しみに。