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Rd.14 トルコGP

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夏休み

2006年8月25日

昨年と同じように、成田からドイツ経由でイスタンブールへ向かう機中で、パナソニック・トヨタ・レーシングのスタッフと会った。ケルンのTMGに籍を置くその日本人スタッフを見て、ボクはてっきり夏休みで帰郷されていたと思い、「いかがでした、夏休みは?」と問いかけた。するとそのスタッフは、少し笑って、こう答えた。「今回は、夏休みじゃなかったんです」

ハンガリーGP後からトルコGPまでの約2週間を、F1界では「夏休み」と呼ぶ。通常のグランプリ間のインターバルより1週間長いだけでなく、この時期はちょうどテスト禁止期間(ドイツGPからトルコGPまで)の真っ只中で、シェイクダウンテスト以外、サーキットでF1カーのエキゾーストノートがまったく響かないからである。

しかし、この時期、F1のチーム関係者で夏休みをとったのは、ごくわずか。日進月歩で開発競争を繰り広げるF1では、365日すべてが勝負だからである。労働基準法が厳しいドイツに本拠地を置くパナソニック・トヨタ・レーシングの場合、1人あたりの休暇日数はほかのチームに比べて多いと聞くが、それでも日本の学校の夏休みや会社のお盆休みのように、ファクトリー全体が休業状態となることはない。

サーキットでの実走テストができなくても、ファクトリーではさまざまなシミュレーションテストが可能である。特に1日24時間体制で稼働させている風洞実験は、この夏休みを利用して後半戦へ投入するさまざまなパーツの確認で忙しかったはずだ。サスペンションのセッティング用に使用される7ポストリグも、無人のTF106Bを乗せて、さまざまなシミュレーションを行っていただろう。さらに今季限りで開発の凍結が噂されているエンジンの開発も、急ピッチに進められていたに違いない。サーキットでF1カーのエキゾーストノートが轟かなくとも、ベンチでは毎日のようにV8サウンドが鳴り響いていたことだろう。

「停滞は後退を意味する」と言われる現在のF1は、開発競争の戦いでもある。シーズンオフに冬休みがないように、F1には春休みもなければ、夏休みも存在しない。むしろこの期間でどれだけ開発を進め、ライバルに先行するのかという見えない戦いを繰り広げていたはず。

夏休みを終えて最初に行われるトルコGP。宿題をしっかりこなした者と、課題を残したまま新学期を迎えた者との差が、鮮明に現れるグランプリでもある。ひと夏を越えて、たくましくなったTF106Bの走りを見たい。

次回、GP Diaryは8月26日に更新の予定です。
お楽しみに。

ノーリーズン

2006年8月26日

陽が完全に、イスタンブール・パーク・サーキットの丘に隠れたころ、いつもは陽気なブラジル人のパナソニック・トヨタ・レーシング広報であるフェルナンダ・ビラス嬢が浮かない顔をして、プレスルームでカタカタとキーボードを叩くボクの机の前にやってきた。

「いま、あなたのチームのレポートを書いているところだよ。5番手で初日を終えたラルフについてね」と、彼女を見ながら笑顔で答えると、「そのラルフが……」と言って、こう続けた。

「ラルフの、ラルフのだけなんだけど、今夜エンジン交換するの。別に壊れちゃったとか、トラブルがあったとか、そういうんじゃないの。ただ、交換したほうが万全だっていう判断をチームが下したわけ」

フェルナンダはそれだけを告げると、振り返ってまた別の親しいジャーナリストの机へ歩いていった。何が起きたのか把握できないボクは、フェルナンダへ歩み寄り、「で、理由は何なの?」と尋ねると、彼女はこう言うのである。

「ノーリーズン」

ボクはそれ以上、聞かなかった。理由を教えてくれなかったことより、理由は言えないけれど、夕闇迫るパドックを約300mも歩いて、その事実だけでも伝えに来てくれたフェルナンダに感謝したからだ。

そして、毎戦のようにどちらかに発生するトラブルを恨んだ。今回のラルフのエンジンは2グランプリ目。つまり、ハンガリーGPでレースを走りきったものである。ハンガリーGPではレース終盤、2レース目だったヤルノのエンジンにもトラブルが発生した。

つまり、2基とも雨のハンガロリンクで酷使されている。路面がウエットになると、トラクションコントロールがいつもより多く作動するのだが、「それは決してエンジンにとって理想的な使い方とはならない」(永島勉シニア・エグゼクティブ・コーディネーター)のだそうだ。

もちろん、ヤルノのトラブルと今回のラルフのエンジンを交換した理由が同じだと限らない。はっきりしていることは、金曜日にエンジン交換するのは、ラルフだけ(写真左/そういえば、セッション後にドイツのテレビのインタビューを受けるときのラルフは5番手だったのに、妙に暗かったなあ)。チームメートのヤルノはそのまま(写真右)。そしてわかっているのは、ラルフが土曜日の予選終了後に予選ポジションから10番手降格となることだけだ。

しかし、それが日曜日のレースでどのような結末につながるのかは、だれにもまだわからない。

次回、GP Diaryは8月27日に更新の予定です。
お楽しみに。

エキサイティングサーキット

2006年8月27日

今回、パナソニック・トヨタ・レーシングは新しいフロントウイングとそれに合わせて車体下部の空力パッケージを一新している。「一新」とはいっても、北米ラウンド以後、レースでは採用されることがなかった新しいタイプのフロントウイングに改良を加えたものであるから、トヨタ流にいえば「カイゼン」してきたといったほうがいいかもしれない(写真右/シミュレーション技術が発達して、最近はあまり見られなくなったリアウイングの角度調整も、今回は細かく変更が加えられていた)。

詳細はわからないが、以前木下美明TMG副社長が語っていたように「ダウンフォースを失わずに、空気抵抗を減らす」仕様となっていると思われる。その証拠に予選の最終第3セッションで5番手のタイムを叩き出したラルフの最高速は、バックストレートエンドでも7番手を記録。チームメートのヤルノに至っては、5番手をマークしている。

イスタンブール・パーク・サーキットは、アップダウンがあり、高速コーナーがあって、ドライバーから好評だ。しかし、理由はそれだけではない。彼らからの評判がいいのは、ここにはオーバーテイクポイントがあるからだ。そして、それを可能にしているのは、タイヤに厳しいレイアウトをしているからでもある。特に180度回り込む8コーナーは、右フロントタイヤにかなりの負担を強いる。それゆえ、通常なら予選を重視した軟らかめのタイヤを選択するが、ここでは単にグリップ力を求めてソフトタイヤを選択するということはない(写真右/土曜日フリー走行で右フロントタイヤのチェックに余念がなかったパスカル・バセロン/シャシー部門シニアゼネラルマネジャー)。

もうひとつ、イスタンブール・パーク・サーキットがユニークなのは、そのスムーズな路面だ。高速コーナーがある一方で、モナコにも匹敵するという滑らかな路面では、ソフト系のコンパウンドが力を発揮する。ロングランではハードタイヤのほうが安定しているが、ニュータイヤでの一発の速さはソフトが明らかに上回っており、予選後ヤルノも「ここはソフトとハードの特長がそれぞれはっきりと表れるサーキット」と、タイヤ選択によって予選と決勝レースでのパフォーマンスが大きく変わることを示唆していた。

ハイスピードコーナーが多いサーキット(バルセロナやシルバーストーン)では、タイヤへの負担が大きいため、タイヤ選択とピットストップ作戦がある程度、限定され、スタート直後のポジション争いを終えると、あとは平穏なレースが続きがちだが、今回は最後まで目が離せない展開になるのではないかと思われる(モナコ並みに路面がスムーズだということは、レース中のゴムの付着度も高く、路面変化も大きい)。

「上位進出の十分なチャンスがある」とヤルノが語れば、エンジン交換によって、予選ポジションから10番手降格して15番手からスタートするラルフも「2台揃ってのポイント獲得も可能だと思っている」とモチベーションは高い。

日曜日もイスタンブールは快晴。気温は3日間でもっとも高くなると予想されている。熱いレースを期待したい。

次回、GP Diaryは8月27日に更新の予定です。
お楽しみに。

自力V消滅

2006年8月28日

「なぜ、フェラーリは2台同時にピットインしたのか」

トルコGPレース直後のプレスルームは、その話題で持ちきりだった。しかし、パドックに出て関係者に取材していくと、フェラーリが採った作戦に間違いはなかったということは明確だった。

仮にM・シューマッハのピットインを1周遅らせていたら……。M・シューマッハはセーフティカーの後ろでスロー走行を余儀なくされ、翌周ピットインしてコースに復帰にしたときには、アロンソにはもちろんのこと、15番手のジャンカルロ・フィジケラ(ルノー)か、16番手のクリスチャン・アルバース(MF1)の後方まで下がっていただろう。

では、逆にM・シューマッハを優先させて、チームメートのフェリペ・マッサをもう1周遅らせるか、あるいはマッサをピット前で待たせておくという作戦はなかったか。確かに作戦としては、なかったわけではない。しかし、過去にもチャンピオンシップを優先するために非情とも思えるチームオーダーを実行してきたフェラーリが、なんの落ち度もなく自力でトップを走るマッサを首位の座から引きずり下ろして、M・シューマッハを代わりにトップに立たせたら、どうなるか。しかも、トルコGP直前には、ルノーが使用していた「マス・ダンパー」が国際控訴法廷で正式に禁止され、フェラーリはただでさえ、反感を買っていた。そんなときに、あからさまな順位の入り換えは、大きな波紋を呼んだはずだ。

それよりなにより、そんなことをしなくとも、その時点でフェラーリには、まだ勝てるという余裕があったのだと思う。土曜日の予選第2セッションで見せた、2番手に1秒差をつけるスピードをもってすれば、2回目のピットストップまでにアロンソを逆転できるという勝算があったはずだ。

ところが、第2スティントでのM・シューマッハの走りは土曜日までとは別人のようにキレがなかった。レースが再スタートした17周目以降、チームメートのマッサのペースに追いつけないだけでなく、前を走るアロンソとの差も3秒から4秒のままなかなか縮めることができないのである。そして、28周目に痛恨のミス。M・シューマッハはタイヤのせいにしていたが、レース後のフェラーリとブリヂストンのミーティングで、「チームメートのマッサは何も問題なく、今日のタイヤは完璧だった」と話されたように、問題はタイヤではなく、この日のM・シューマッハの走りにあったのではないか。

タイトルは与えられるものでなく、自ら勝ち取るもの――――残り4戦、チャンピオンに相応しい戦いを両者には期待したい。

次回、GP Diaryは9月1日に更新の予定です。
お楽しみに。

ソフト

2006年9月1日

土曜日の午前中、ピットレーンへ出てフリー走行3回目を見ていたら、パナソニック・トヨタ・レーシングの2人が、異なるセット番号のタイヤを履いてセットアップを進めている光景に出くわした。ピットインしてきた2人のタイヤを見ると、ラルフのフロントタイヤにはグレイニング(めくれ摩耗)が出ており、ヤルノのタイヤは4輪ともきれいに摩耗していた。

ソフトとハードの典型的な症状がタイヤに表れていた2人。ラルフがソフト、ヤルノはハードを装着していた。この時点で、セッションはまだ半分以上の時間が残っていた。ラルフのグレイニングがかなりひどいように見えたので、ボクは「この後、ラルフもヤルノと同じハードに戻すだろう」と予想していた。これまでも硬めのタイヤを選択することが多かったパナソニック・トヨタ・レーシング。今回、ヤルノが選択していたハードも、ブリヂストン勢でもっとも硬いスペックだった。

残り10分を切ったところで、ソフトタイヤを履いたラルフがピットインしてきた。パスカル・バセロン(シャシー部門シニアゼネラルマネジャー)をはじめ、担当エンジニアがラルフのフロントタイヤに群がり、タイヤのコンディションを確認した後、額を付き合わせて話し合っていた。メカニックは異なるスペックのタイヤを用意し、いつでも交換できる態勢をとっていた。ラルフは今年のカナダGPでソフトタイヤを選択し、レース後半にリタイアに追い込まれたという苦い経験があった。

一方、ヤルノ陣営は落ち着いていた。異なるスペックのタイヤも周辺には見られず、朝から「ハードで行く」という決心がついていたようだった。ところが4分後、ラルフが最後のピットアウトをしたとき、装着していたのはソフトタイヤだった。この瞬間、トルコGPにおける2人のタイヤ選択は分かれたのである。

これまでもハードでレースを戦うことが多かったため、ヤルノがレースで大きく崩れることはないだろうということは容易に想像できた(レース序盤は安定したタイムで次々とオーバーテイクを披露したヤルノだが、路面温度が下がったことと、セーフティカー出動によって、タイヤのウォームアップに苦しみ中盤からペースアップがきかなかった)。

これに対して、ややチャレンジングな選択を行ったラルフのレースが、ボクは楽しみだった。15番手からのスタートといえども、予選最終セッションへ進出していたため、ラルフの燃料は周囲のグリッドからスタートするライバルたちに比べて軽く、しかも予選で5番手となるスピードがあった。だから、10番手降格が決まっている中、駒を進めた予選最終セッションでも、燃料を重めにすることなく、レースでソフトタイヤのグリップ力を生かせる分だけ搭載したのだ。その作戦が、レースでどうなるのかを見たかった。

ところが、スタート直後のラルフの「ヤルノがーっ!」という悲鳴とともに、その楽しみは半減してしまった。ラルフはジャンカルロ・フィジケラ(ルノー)のスピンによって、行き場を失った後続のドライバーの一人として、急激な進路変更を迫られ、12番手からスタートしたヤルノと、フィジケラを避けた直後に出くわしたのである。1周目にピットインしてきたラルフに対して、チームはノーズ交換を行うと同時に、燃料を補給。事実上の1ストップ作戦に切り替えるのである(同じく1周目にピットインしたフィジケラも1ストップ作戦に切り替えていた)。

燃料を重めにして、ピットストップで順位を上げるのではなく、ソフトタイヤのスピードを生かしてコース上で抜いていこうという作戦は、この瞬間、消えてしまった。

上位6人の自己ベストが1分28秒台だったのに対して、ラルフは1分29秒084(写真左)。しかし、永島勉シニア・エグゼクティブ・コーディネーターは今回ソフトを選択したチームの判断と、そのタイヤを履いて7位入賞したラルフをこう評価した。

「アクシデントに巻き込まれて、1周目に燃料をあんなに積むことがなければ、ラルフも1分28秒台は出せていたと思う。確かに今回のソフト選択はチャレンジングな戦略ではあった。各スティントの最初にグレイニングも出たし、ブリスターの兆候も見られました。でも、それらの症状を、ラルフは走りながらしっかりとマネジングして、7位で走りきってくれました」

トルコGPでタイヤの使い方に関して、チャレンジを行ったパナソニック・トヨタ・レーシング。しかし、これに甘んじてはいけない。この日、優勝したフェリペ・マッサ(フェラーリ)が選択したタイヤは、ブリヂストンが持ち込んできた中ではハードだが、それでもラルフのソフトより軟らかいコンパウンドだったのだから。

次回、GP Diaryは9月8日に更新の予定です。
お楽しみに。