“I did it my way”
2006年10月27日
ひとつの時代の幕が下ろされた。10月22日のインテルラゴスは、2006年シーズンの最終戦というだけでなく、16年間に渡ってF1をリードし続けた男の、最後のレースデーとなった。皇帝ミハエル・シューマッハの引退レースである。
スタート直前のダミーグリッドは、皇帝の最後の姿を見届けようと、普段はプレスルームから出ないジャーナリストたちも押し寄せたため、それはすごい人だかり。その中には、フランス・パリから急きょ駆けつけたミカ・ハッキネンの姿もあった。ハッキネンと親しいジャーナリストが土曜日に聞いたところによれば、今回の来訪はハッキネンの切なる願いだったという。
「引退して数年が経ち、いま私はミハエルがどんな気持ちで最後のレースに臨もうとしているのか、とてもよくわかるんだ。これだけ長い間、トップの座に君臨していたんだ。もう充分だと思ってもしかたがないだろう。そして、そのような気持ちを少しでも持ち始めたら、私は引退すべきだと思う。たとえ、いま彼がそう思っていなくとも、『この先もずっとそういう気持ちを保ち続けることができるだろうか』という疑問を持ったなら、やはり引退すべきだろう。少なくとも、私はあのとき(2001年いっぱい)引退して良かったと思う。勝利へ向かう気持ちが100%維持できなくなったんだからね」
現役時代は無口だったハッキネン。事実上F1から引退した2001年から5年という月日が経ち、インテルラゴスでのハッキネンはプレッシャーから解放されていたせいか、饒舌だったという。それは、日曜日のダミーグリッド上でも同じだった。M・シューマッハがスタート前のトイレ休憩から帰ってくるまでの間、ボクがハッキネンにM・シューマッハとの思い出を尋ねると、彼は喜んでこう語ってくれた。
「98年、99年、そして2000年。この3年間のM・シューマッハとのバトルは壮絶だった。特に2000年のスパのサイド・バイ・サイド。あれは本当に手に汗握るバトルだった。もちろん、鈴鹿での攻防も忘れられない。ミハエルとの思い出は本当にいっぱいあるよ」
その直後にM・シューマッハがダミーグリッド上に戻ってくると、ハッキネンの元に駆け寄る。特に何を話すわけでもなく、懐かしそうに肩をたたき合う2人。M・シューマッハも、イタリアGPでの引退会見で、「これまでで最高のバトルは?」という質問に、「2000年のミカとの攻防」と答えている。おそらく、2人はこのとき、心と心で会話していたのだと思う。「いいレース人生だった。ありがとう」と。
それからM・シューマッハは、おそらく自分の中に残っていたレーシング魂の炎を燃えつかせようとしているかのように、71周のレースを順位とは関係なく、100%の力で走りまくっていた。そしてチェッカーフラッグを受けると、これまでのレースで見せていた派手なポーズではなく、いままで見せたことがないようなさわやかな笑顔をパルクフェルメで披露し、ドイツメディアに対する引退会見へ臨んだ。これまでM・シューマッハとドイツメディアの間には、ピリピリとした雰囲気があったというが、会見は終始和やかに行われたという。M・シューマッハがこれまでドイツメディアに対してとっていた冷たい態度を詫びたとも聞く。いずれにしても、会見に臨んだその姿は、皇帝として君臨していた厳しさはなく、37歳のひとりのドイツ人だったという。
「あのとき、ああしていればと考えないわけでもない。でも、おおむねよくやってきたと思う。だから、悔いはない。できれば表彰台で最後を終えたかったけど、しょうがない。これもレース。今後のこと? 本当にまだどうするのか、答えられないんだ。ただひとつ言えることは、来年の開幕戦のグリッドに僕はいない。たぶん子供と遊んでいるか、テレビでも観ているよ。とにかく、この16年間は、本当に充実していたよ」と言い、フランク・シナトラの名曲を引き合いに出して、「I did it my way」と16年間を締めくくった。
インテルラゴスでの引退レース。250戦目となった最後のレースは、彼のベストレースともいえる素晴らしい走りだったと思う。本当にお疲れさまでした。
M・シューマッハのダミーグリッドに駆けつけた元ワールドチャンピオンのハッキネン。ともに「ベストライバル」と認め合う仲である
序盤にパンクしてタイヤ交換を済ませてピットアウトするM・シューマッハを、ガッツポーズで送り出すマーシャル。マッサ一色のスタンドも大いに沸き上がった瞬間だった
次回は11月10日(金)に更新の予定です。
お楽しみに!
http://f1.panasonic.com/cgi-bin/form/tb.cgi/812
- 本サイトのご利用は、ご利用者ご自身の責任において行われるものとします。
- 掲載内容等に関するご質問には、お答えできない場合がございます。予めご了承の上、ご利用ください。
- コメントの書き込み、トラックバックは自由に行っていただいてかまいませんが、事務局が不適切と判断した場合には削除することがあります。
予めご了承の上、ご利用ください。
もえなおさん|2006年10月28日9時45分
シューマッハの引退の理由は、やはり気持ちがついていけなくなったのだと思います。
今年はつまらないミスも多かった。彼の反射神経や動体視力は、高いレベルなんだけど以前のレベルじゃない。
あとアロンゾやライコネンの想像力豊かなドライビングを見て「引き際」を悟ったのかもしれませんね。丁度セナがミハエルの高いレベルのドライビングに焦ったのと重なる気がします。
いずれにせよ彼は「皇帝シューマッハ」という人間を演じてきましたが、もう演じきれなくなったと思います。
今季印象的だったのは、日本GPでのミハエルの乗るフェラーリのエンジンブロー。まるでF1の神様が「チャンピオンになって、勝ち逃げなど許さん」とばかりの仕打ちだったように思えます。
そして今回のブラジルGPでまさかのタイヤのパンク。しかしそれにもめげず4位入賞。まるでF1の神様に牙を向くような走りでした。
この2つで、ミハエルのレース人生を集約していたような気がしました。
なんだかんだ色々とあった人でしたが、来季いなくなると思うとやはり寂しい。
とりあえず、ミハエルお疲れ様