Record
2008年3月28日
オーストラリアGPが開催されたメルボルンと、10年目の記念大会となったマレーシアGPのセパンで、2つの記録が誕生した。
メルボルンでは、ウイリアムズ・トヨタに乗る中嶋一貴が、日本人F1ドライバー史上最年少でグランプリポイントを獲得。グランプリ出場2戦目での入賞も、父親の悟さんに並ぶ日本人F1ドライバー史上最短の記録だった。
セパンで誕生した記録は、その一貴とともにTDP(トヨタ・ヤング・ドライバーズ・プログラム)でレース活動を続けている小林可夢偉によって、達成された。その記録とは、日本人によるGP2シリーズ初優勝である。近年、海外で活躍するドライバーが珍しくなくなってきているため、意外な印象ではあるが、確かにこのカテゴリーで日本人ドライバーが頂点に立ったことはない。
2001年にヨーロッパの主要3カ国のF3選手権を日本の若武者3人が同時に制したことはある。しかし、それはあくまでF3選手権。しかも、それぞれの国内選手権である。そのひとつ上のクラスとしては、2004年まで国際F3000というチャンピオンシップがあったが、残念ながらこのクラスで日本人は優勝することはできなかった。
昨年、中嶋一貴や平手晃平がこのGP2シリーズに参戦し、ヨーロッパラウンド中盤戦で相次いで表彰台に立ったことはある。しかし、それでも最高で2位。真ん中に登壇することは結局、なかった。
その前人未踏の頂点に、可夢偉は足を踏み入れたのである。今回、可夢偉が優勝したシリーズは、GP2はGP2でも今年新設されたばかりの「アジアシリーズ」。しかし、4月下旬にスタートするメインシリーズに参加するドライバーの多くが参戦しており、レベル的にはメインシリーズと遜色ないと思われる。現にレース終盤、可夢偉を激しく追い上げて2位でフィニッシュしたロマン・グロジャンは、メインシリーズでもチャンピオン候補のひとりである。
もうすぐ開幕するバーレーンGP。バーレーン・インターナショナル・サーキットで熱い火花を散らすのは、F1だけではない。そのF1を目指すGP2ドライバーたちの戦いも始まる。そして、その戦いの中心に可夢偉が入ろうとしている。
記録が生まれるとき、時代もまた新たなステージへと進化する。バーレーンでどんな舞台が待っているのか、楽しみにしよう。
次回、GP Diaryは4月3日に更新の予定です。
お楽しみに。
風速15m
2008年4月3日

もう500回以上も飛行機に乗っていると、離発着時の機体の不安定感というのに慣れっこになってしまっているようだ。時々周りの乗客が「きゃーきゃー」と言っているのが、なぜなのか鈍感になっているときがある。
そんなボクでも、今回バーレーンに着陸するときは「結構、揺れているなあ」と思ったものである。そして空港を出て、あらためて今年のバーレーンは風が強いことを実感した。自分のレンタカーのドアを開けて、後ろに置いてある荷物を持ち上げて振り返ったら、ドアが閉まっていた。風がドアを閉めたのである。
高速道路を走っていても、何度かハンドルが取られそうになった。さらに中東らしいなあと思ったのが、道路が砂漠化していることである。砂漠といったらちょっと大げさだが、風によって道路に運び込まれた砂がアスファルトの上で縞模様になっているのである。それが風に揺られて、ヘビの群れが動いているかのように、ゆらゆらと移動する光景は異様だった。
この日、ボクは地元のテレビも新聞も見なかったので、いったいどれくらいの風が吹いていたのかは確認できなかったけれど、新居章年テクニカルコーディネーション担当ディレクターによれば、週末のバーレーン・インターナショナル・サーキットには、かなりの強風が吹き込むらしい。瞬間的には秒速15m程度の突風が吹くという。台風の最低瞬間風速が秒速17.2mだから、かなりの強風である。
F1カーは、空気の力を利用して、クルマを地面に押しつけるダウンフォースによってコーナリングスピードを上げて走行する特殊なクルマである。新居章年DTCによれば、「風速7~8mでもクルマはかなり不安定になる」というから、それ以上の強風が吹けば、かなり操縦しづらくなることは想像に難くない。しかも、今年からトラクションコントロール(TC)だけでなく、エンジンブレーキコントロールも禁止された。そのような状況でドライバーがどのようにクルマをコントロールするのか。ドライバーたちには悪いが、彼らの腕並みを拝見するには絶好の機会となるグランプリかもしれない。
次回、GP Diaryは4月4日に更新の予定です。
お楽しみに。
1分39秒
2008年4月4日
バーレーンGP初日、新しいレギュレーションが発表された。それは予選で第3セッションに進出したドライバーへの忠告である。
「異なるスピードのクルマが混在することによって事故が発生することを避けるために、第3セッションでは(ピット)アウトラップも(ピット)インラップも含めて、コースインしたクルマは不必要にスピードを落として走行してはいけない」
これは前回のマレーシアGPの第3セッションで、タイムアタックを終えてピットに向かっていたマクラーレンの2台が走行ライン上をスロー走行していたため、直後にタイムアタックしたニック・ハイドフェルト(BMWザウバー)とフェルナンド・アロンソ(ルノー)が、避けなければならなかったためだ。そして、マクラーレンの2台は5番手降格のペナルティを受けた。
この一件を生んだ背景には、今年改訂された新しい予選方式がある。今年は第1セッションの時間が5分間延長されて、第3セッションが5分間短縮された。そして、それとともに第3セッションに進出したドライバーは、昨年までのように消費した分の燃料をレーススタート前に注ぎ足すことはできなくなったのである。したがって、アタックを終えたドライバーは燃費を良くするために、スローダウンしながらピットに帰ってくるようになった。
そこでFIAは、このバーレーンGPから以下のようにレギュレーションに追記事項を盛り込んだ。
「セーフティカーライン2(1コーナーの50m手前)からセーフティカーライン1(最終コーナー直後)までの区間を走行するクルマは、いかなるときでも1分39秒を超えてはならない」
2台そろって、予選でトップ10を目指しているパナソニック・トヨタ・レーシング。土曜日の予選ではこの新しいレギュレーションをしっかりと守ってほしい。
次回、GP Diaryは4月5日に更新の予定です。
お楽しみに。
予選セッティング
2008年4月5日
予選後にクルマのセットアップを変更することができた時代。予選には軽いタンクで一発速いタイムを計測するための、「予選セッティング」と呼ばれる専用のセッティングがあった。しかし、予選後パルクフェルメにクルマを保管するようになった現代のF1では、予選セッティングで予選を走るクルマは事実上、姿を消した。
では、いったいどんなセッティングで予選のタイムアタックをしているのかというと、それはレースセッティングである。セッティングを変更できないという理由だけなら、予選セッティングでタイムアタックを行い、そのセッティングでレースを戦うという方法もあるかもしれない。
しかし、レースのほうが長丁場であるため、たとえ予選でいいポジションを獲得しても、レースではすぐにポジションを明け渡す可能性が高い。特に昨年からは2種類のタイヤをレースで最低1回ずつ装着しなくてはならなくなった。このため、燃料を多く搭載した状態で安定して走ることができるレースセッティングに、どのチームも金曜日から集中するようになったわけだ。
それでは、「燃料を多く搭載した状態で安定して走ることができる」セッティングとは、どのようなセッティングかというと、リアが安定していることである。タイヤのグリップが大きかったかつては、ニュータイヤでの一発の速さを武器に3ストップ、時には4ストップも可能で、予選用セッティングで速いクルマでも、レースで戦うことはできた。
しかし、ワンメイクになってグリップ力が2割落ちた現在のタイヤ。2ストップが主流となったいまは、グリップがかつてほど高くないタイヤを、上手に使うことが求められている。さらに2種類のタイヤを装着しなければならなくなったため、比較的パフォーマンスが低いほうのタイヤを履いた状態でも、クルマを安定させなければならない。そのため、現代のF1はセットアップだけでなく、クルマの開発においても、よりリアタイヤにやさしいクルマづくりが求められるようになった。
ところが、予選で一発速く走るために理想的なセットアップとは、フロントの回頭性がいいクルマである。ということは、現在のF1ドライバーたちは、予選向きではないセッティングでタイムアタックをしているということができる。逆説的にいえば、予選で速いクルマが、そのままレースでもリアが安定してロングランで速いクルマとは限らないのである。
特にバーレーン・インターナショナル・サーキットはリアタイヤに厳しいサーキット。予選とは異なる結果が待っていても、不思議はない。
次回、GP Diaryは4月6日に更新の予定です。
お楽しみに。
初完走
2008年4月6日
1回目のピットストップでフェルナンド・アロンソ(ルノー)を逆転して、9番手に浮上したティモ・グロック。喜ぶティモの前に、もう1台のトヨタ・エンジンを搭載するクルマが走行していた。ニコ・ロズベルグ(ウイリアムズ)である。
2人の差は25周目のコントロールライン通過時で1.9秒。以後、1.3秒、1.5秒、1.7秒とテール・トゥ・ノーズの緊迫した争いが繰り広げられた。そして30周目には、その差は0.6秒にまで接近。しかし、36周目に1分35秒台で走行していたティモのペースが、突然1分37秒台に落ちる。ギアボックスの制御系にトラブルが発生してしまうのである。
あっという間にロズベルグとの差は約4秒に広がっただけでなく、ピットストップでかわしたアロンソに肉薄される苦境に立たされたティモ。しかし、彼の真骨頂はここから発揮される。冷静に状況を無線でチームに伝えたティモは、チームから「クイックシフトチェンジからバックアップモードに切り替えよ」という指示を聞き、走行中にステアリングに付いているボタンを操作。クイックシフトチェンジからスタンダードシフトチェンジモードに切り替えるのである。
クイックシフトとは、いわゆるシームレス(無段階変速のよう)にシフトチェンジが行われる機構である。シフトチェンジが素早く行える反面、トラブルに見舞われるリスクがあるため、チームはバックアップモードを用意している。
ギアボックスの制御系に異変が発生したとき、ティモはポイント圏内を走行していたロズベルグを1秒以内で追っていた。異変を感じたとはいっても、まったく走ることができない状態ではない。無理を承知で、そのままシフトチェンジして、行けるところまで攻め続けたとしても不思議ではない。しかしそうしていれば、ティモのギアボックスは間違いなく壊れていただろう。
冷静な判断でスタンダードシフトチェンジモードに切り替えたティモ。しかし、今度はシームレスではなくなったため、38周目からティモのクルマは、シフトダウンの際にショックが発生するようになってしまった。シフトショックは低速ギアでより大きく、スタンダードECUが導入されてエンジンブレーキコントロールが禁止された今年のF1では、リアタイヤがロックしやすくなることを意味していた。つまり、ティモのギアボックスは壊れることは避けられたものの、早く走行するためにはベストな状態ではなかったのだ。そのため、ラップタイムが落ちても不思議はなかった。
ところが、ティモはその後、1分35秒台を安定して刻むのである。そして、一度は背後まで迫られたアロンソを振り切るのだった。それは、まるで激戦となった昨年のGP2を制したときを彷彿とさせる、冷静かつ決してあきらめないティモらしい粘り強い走りだった。
惜しくもポイントは獲得できなかったが、ボクの中では満点のレースだった。
次回、GP Diaryは4月11日に更新の予定です。
お楽しみに。
for Barcelona
2008年4月11日
木曜日の夕方、バーレーン・インターナショナル・サーキットのピットレーンを歩いていたら、パナソニック・トヨタ・レーシングがピットストップ作業の練習をしていた。
「今回、バーレーンに新しいノーズ&フロントウイング・パッケージを持ってきているので、金曜日に試したい」と新居章年テクニカルコーディネーション担当ディレクターが、昼過ぎに行った囲み取材で語っていたので、どんな形状をしたものなのかを確かめようと、トヨタのピット前まで足を運んだ。
通常、ピット練習に新しい空力パーツを使用することはない。新しく持ち込んだ空力パーツというのはほとんどの場合、予備がないからだ。もしも、ピット練習で壊れてしまっては大変である。しかし、フロントウイングとなると話は別である。というのも、最近のフロントジャッキは、持ち上げる部分がフロントウイングのメインフラップと同じ形状となっているためだ。
フロントウイングの形が変われば、ジャッキも新しいものを用意しなければならない。そして、ジャッキを新しくすれば、当然それを使った練習もしなければならない。つまり、フロントウイングを新しくすれば、必ずピットストップ練習でタイヤ交換や給油練習だけでなく、ノーズ交換も行って、フロントジャッキに不具合がないかどうかを確かめるというわけである。
ピットストップ練習は、基本的にタイヤ交換と給油の練習がメインである。したがって、なかなかノーズ交換の練習に移らなかったが、陽が西に傾くころ、ようやくノーズ交換の練習に移行。どこが違うか、フロントウイングとノーズだけをしげしげと見ていた。
なるほど……。
結局、バーレーンでは金曜日の午前中に2台のクルマに、新しいノーズ&フロントウイング・パッケージを装着して比較テストを行ったものの、もともとバルセロナ用に開発したものだったということもあり、土曜日以降は不採用となった。そのため、テレビ中継された土曜日と日曜日に新フロントウイング&ノーズが映ることはなかったのである。したがって、そのディテールもここでは控えさせてもらうが、「空力効率を損なわずに、ダウンフォースを上げた」(新居章年DTC)仕様となっているということである。
来週のバルセロナ合同テストでは、さらに大幅に改良した空力パッケージがトライされるという。スペインGPを楽しみにしていてほしい。
次回、GP Diaryは4月23日に更新の予定です。
お楽しみに。