2年ぶり
2008年7月17日
2年ぶりにホッケンハイムに来た。1年前のことでも、最近はなかなか思い出せなくなってきているのだから、2年前のことは忘却の彼方である。とはいえ、F1で2年間というのは、一般の人たちが思うより長く感じるものである。例えば、2年前のホッケンハイムリンクを走っていたドライバーで、今年もグランプリにエントリーしているドライバーは、22人中11人。じつに約半分のドライバーが入れ替わっているのである。2年とは、そういう長さである。したがって、どんなレースがこれまで繰り広げられたのか、思い出すのに苦労しているのはボクだけでないと思うので、ここで過去5年間のレースレポートを振り返ってみたい。
パナソニック・トヨタ・レーシングがF1に参戦した02年のドイツGPは、前戦フランスGPでチャンピオンを早々に決めたミハエル・シューマッハ(フェラーリ)の凱旋レースとなった。レースもそのM・シューマッハがポール・トゥ・フィニッシュの圧勝。ちなみに、このとき獲得したポールポジションが、M・シューマッハにとってホッケンハイムリンクでの初PP。地元グランプリで地元のドライバーが好成績を挙げることが意外と難しいといういい例である。なお、この年のパナソニック・トヨタ・レーシングはアラン・マクニッシュがリタイア。チームメートのミカ・サロは完走したものの、最下位だった。
翌03年はスタート直後に3台がクラッシュするアクシデントが発生したため、セーフティカーが導入する荒れた展開の中、これまたポールポジションからスタートしたファン・パブロ・モントーヤが逃げ切って優勝。パナソニック・トヨタ・レーシングは終盤に、M・シューマッハがパンクして緊急ピットインして2番手から7番手に転落したため、オリビエ・パニスが5位、クリスチアーノ・ダ・マッタが6位に入り、2台揃って入賞。チーム創設以来、初めてのダブル入賞を記録した。
04年は再びM・シューマッハの独壇場。ポール・トゥ・ウィンでシーズン6連勝を飾って、それまでの年間最多勝利(02年11勝)に並ぶ圧勝劇を演じた。この年のパナソニック・トヨタ・レーシングは不振を極めたシーズンとなり、ドイツGPはパニスの14位が最高だった。
それから1年後の05年。主役はライコネン(マクラーレン)とアロンソ(ルノー)のタイトル争いを演じていた2人だった。序盤レースをコントロールしていたのはライコネンだったが、メカニカルトラブルでリタイア。ライコネンは前年の04年も優勝できるポジションを走行中にリアウイングが破損してクラッシュ。悪夢のホッケンハイムリンクとなった。なお、パナソニック・トヨタ・レーシングは3ポイントを挙げている。
そして2年前の06年は、そのシーズン限りで引退することとなったM・シューマッハが最後の地元グランプリで優勝するという見事なフィナーレを飾った。この勝利はまた、ブリヂストンにとってもF1通算100勝目となるメモリアルグランプリ。パナソニック・トヨタ・レーシングはヤルノ・トゥルーリがマス・ダンパー禁止で失速したルノー勢を追い立て、7位でフィニッシュし、ホッケンハイムリンクで2年連続入賞を果たした。
2年ぶりのホッケンハイム。今年はどんな歴史が刻まれるのだろうか。
次回は7月18日に更新の予定です。
お楽しみに。
2エレメント
2008年7月18日
「トヨタの中でも、『どうしてウチはフロントウイングが3枚じゃないの?』という人がいるんですよね」
木曜日の夜、ホッケンハイムリンクで行われたパナソニック・トヨタ・レーシング主催のカクテルパーティの席で、あるトヨタのエンジニアがそう言っていた。確かにTF108のフロントウイングのフラップは2枚である。そして、BMWザウバー、ルノー、レッドブル、トロ・ロッソ、ホンダ、フォース・インディアのフロントウイングのフラップは3枚だ。
ただし、トヨタも3枚フラップを試そうともしなかったわけではなく、風洞実験では何度も試したことがあるという。しかし、なかなかいいものを見つけることができなかったそうだ。フロントウイングは車体の中で最初に風を受ける場所。そのクルマのエアロダイナミクスを左右する、非常に重要なパーツである。確かにそのパーツがほかのチームと異なっていれば、「そこがTF108の課題ではないか」と、端から見ている人が思うのも当然である。
しかし、3枚ウイングそのものが、イコールF1の空力の正解でないことは、現在のトップ2チームであるフェラーリとマクラーレンが3枚ウイングでないことが、じつに明快に証明していると思う。アッパーデッキフラップを除けば、フェラーリはトヨタと同じ2エレメント構造のフロントウイングである。「でも、マクラーレンは3枚じゃないか?」と思う人もいるかもしれない。確かにマクラーレンはいち早く3枚ウイングを採り入れた先駆者である。しかし、すでに前戦イギリスGPからマクラーレンは3枚ウイングは採用していない。彼らのクルマはいま4枚ウイングとなっている。
つまり、現在のF1は2枚フロントウイングと4枚フロントウイングの2チームがトップ2を形成しているのである。だから、3枚ウイングにすれば良いという単純なものではないのである。
パナソニック・トヨタ・レーシングのフロントウイングはフランスGPからリニューアルし、さっそくマニ-クールで2年2カ月ぶりの表彰台を獲得して結果を出した。イギリスGPではそれに改良を加えたものを投入。そして、今回ドイツGPでさらにモディファイしたホッケンハイムスペシャルを投入している。
2枚か、3枚かではなく、速いクルマがモータースポーツでは正しいのである。
次回は7月19日に更新の予定です。
お楽しみに。
発言
2008年7月19日
木曜日にTMGのレース関係者と食事をする機会があった。特に取材ではなく、会話もF1以外の話題で盛り上がっていたのだが、向こうのほうから話がF1の話題に脱線(?)した。そして、最後にこう言うのである。
「いま、こんなことを言ってもだれも信用しないかもしれませんが、今週末のドイツGPでは表彰台を狙っています」
そのとき頭の中を駆けめぐったのは、30分ほど前に行われた、新居章年テクニカルコーディネーション担当ディレクターの日本人メディア用に開かれた会見だった。新居章年DTCもそういえば、最後に週末の意気込みを尋ねられたとき、「表彰台に上りたい」とコメントしていた。普段控えめな新居章年DTCにしては大胆だなあと思っていたのである。
さらに初日のフリー走行を終えて、ヤルノ・トゥルーリが12位、ティモ・グロックも16位とベストタイムだけを見れば、上位に食い込むことができなかった金曜日。その夕方の会見でも、新居章年DTCは「こんなことを言ったら笑われるかもしれませんが、予選に向けては手応えはあります」と語っていた。
木曜日のコメントが決して大胆でなかったことは、土曜日に行われた予選が物語っている。ヤルノが予選第2セッションで、5番手のタイムをマークしたのである。ボクが驚いているのは、5番手というポジションにではない。トップのルイス・ハミルトン(マクラーレン)からコンマ5秒差につけたことである。さらに当面のライバルと語っているBMWザウバーのロバート・クビカを上回ったことだ。
確かにハミルトンは第2セッションで1回アタックしかしておらず、ヤルノは2回行ったが、ヤルノのベストタイムは第2セッションの1回目に記録したもの。つまり、もし燃料搭載量が同じであれば、路面コンディションはほとんど同じだったと考えられる。またクビカはヤルノと同じ2回アタックし、2回目がベストタイムだった。
そして、予選後の会見で新居章年DTCはこう語っていた。
「もちろん簡単なことではありませんが、4位ならこう言ってもいいでしょう。明日のレースは表彰台を取りに行きたい」
その発言を笑う者は、土曜日の午後のパドックにはいなかったように思う。
次回、GP Diaryは7月20日に更新の予定です。
お楽しみに。
Dear イザベル
2008年7月20日
MOTORSPORT IS DANGEROUS.
これはボクたちが取材するために持つ、クレデンシャル(取材パス)の裏に書かれている一文である。ボクが93年に初めてF1の取材を行うようになってから、ずっと書かれている文句だ。だから、いまさら言われなくともわかっている。しかし、事故が起きるたびに、背筋が凍り付くものである。
ティモ・グロックが最終コーナーでトラブルに見舞われてクラッシュしたときも同じだった。ティモの容体を心配すると同時に、ボクはある人のことを考えていた。それは、彼の恋人のイザベルさんである。今回のドイツGPは彼にとって、F1ドライバーとして初めて迎える地元で開催されたレースだった。モーターホームには普段よりも多くの友人や知人が来ていたのである。スターティンググリッドにはご両親の姿もあった。それら多くの仲間たちの中で、毎日サーキットを後にするとき、ティモと手をつないで帰っていたのが、イザベルさんだった。
幸い、ティモはコクピットを脱出した後、メディカルセンターに搬送され異常がないことが確認された。しかし、用心をとって病院へと運ばれ、精密検査を受けたという。
レース後、新居章年テクニカルコーディネーション担当ディレクターの記者会見がトヨタのモーターホームで開かれているとき、チームマネージャーのリチャード・クリーガンが入ってきて、新居章年DTCに耳打ちをした。リチャードの顔が少しこわばっているように見えたので、いやな予感がした。しかし一瞬の間があったものの、新居章年DTCの表情が緩んだので、安心した。
「病院の検査でも異常はなかったそうです。ただ、今晩は病院で一夜を過ごすことになっています」(新居章年DTC)
ポイント圏内を走行しながら、トラブルに見舞われてクラッシュしたティモ。そして、その事故を間近で見ることとなったイザベルさんにとって、今週末のドイツGPは最悪の週末だったことだろう。しかし、ティモのレース人生はこれで終わったわけではない。辛いかもしれないが、チャンスがあれば、イザベルさんにはまたティモのレースを観戦に来てもらいたい。きっと、ティモも今夜ベッドの中でそう願っているに違いない。
次回、GP Diaryは7月25日に更新の予定です。
お楽しみに。
6種類
2008年7月25日
7月8日から3日間、ホッケンハイムリンクで合同テストが行われた。その最終日となった7月10日にトップタイムを叩き出して、テストを締めくくったのがフェラーリのフェリペ・マッサである。タイムは1分14秒989だった。テスト3日目ということで、路面にはラバーが乗り、路面温度も約35℃と暑かった。
ところが、1週間後のホッケンハイムは涼しかった。現在のF1は走行時間が限られ、Tカーや3台目のクルマの走行も許されていないため、シミュレーションの精度が著しく向上した。しかも、ホッケンハイムは1週間前にテストを行い、データは揃っている。フェラーリが圧勝しても不思議はなかった。しかし、勝ったのはマクラーレンのルイス・ハミルトンだった。その要因はいくつか考えられるが、もっとも大きなウェイトを占めていたのが、気温と路面温度が1週間前と異なっていたからではないかとボクは分析している。
1週間前のテストで30℃以上あった路面温度は、ドイツGP初日のフリー走行開始時には雨が降っていたこともあって18℃まで降下していた。午後に入って雨は上がったものの、フリー走行2回目スタート時の路面温度は24℃と、1週間前より約10℃も低かったのである。それが各車のペースを鈍らせ、セットアップを狂わせたことは想像に難しくない。合同テストでの各車の平均ラップタイムは1分16秒4だったが、ドイツGP初日午後のフリー走行の平均ラップタイムは1分17秒3。約1秒ラップタイムが落ちていたのである。
影響が及んだのは、セットアップだけではない。2種類持ち込まれたタイヤを日曜日のレースでどのように使い分けるかについても、難しい選択を迫られることになった。1週間前のテストではタイヤのデグラデーション(タレ=パフォーマンスダウン)は67周のレース距離の約半分の33周で、ハードタイヤのほうが1.99秒と、1.71秒のミディアムよりも大きかった。つまり、1週間前のテストを終了した段階で、ミディアムのほうが若干ロングランで速かったわけである。
ところが、ドイツGP初日のフリー走行2回目で各チームがロングランを行い、タイヤの比較をしてみたところ、その値が逆転していたのである。ハードは0.75秒、ミディアムは1.47秒。今度はハードのほうが断然安定したペースで走ることができるようになったのである。ハードより軟らかいコンパウンドのミディアムのフロントタイヤは、低い路面温度でグレイニング(めくれ摩耗)を発生させ、そのめくれがきれいに取れるまでに数周の間、ラップタイムが落ち込んでハードよりもペースが鈍るのである。
これだけを考えれば、「低い路面温度で安定しているハードタイヤが勝負タイヤ」となるはずだったが、今年のドイツGPが難しかったのは、日曜日は晴天となり、路面温度が30℃ぐらいまで上がると予報されていたことだ。そのため、スタート時のタイヤがチームによって分かれた。パナソニック・トヨタ・レーシングの2人をはじめ11人がミディアムを選択したのに対して、フェラーリ、ルノー、マクラーレンら約半分の9人のドライバーがハードを選択していた。
さらに興味深いのはその先の使い方だった。最初にミディアムを選択したドライバーの多くはミディアム-ミディアム-ハードと推移していったが、中にはミディアム-ハード-ミディアムというドライバーもいた。またハードを最初に選択した9人も、ハード-ハード-ミディアム(ハミルトン)もいれば、ハード-ミディアム-ハード(マッサ、アロンソ)、ハード-ミディアム-ミディアム(ライコネン)と、チームの中で選択が分かれることもあった。
レース中のタイヤの使われ方は、全部で6種類。それだけ、今年のドイツGPはタイヤの使い方が難しかったのである。
次回は8月1日(金)に更新の予定です。
お楽しみに。