冷たい雨
2008年9月4日
水曜日、雨が降る中、ドイツ・フランクフルト空港からレンタカーで一路ベルギーへ。エイフェル山脈を抜けて、アルデンヌ山地に出ると、季節は夏から秋へと完全に移り変わっていた。
ホテルに到着して、凍えながらトランクからスーツケースを下ろし、チェックイン。「寒いですね」と、1年ぶりに再会したホテルのオーナーにあいさつした後に尋ねると、「ここの夏はいつもこんなもんですよ」と涼しい顔をされた。部屋にはエアコンなど冷房器具はなく、ヒーターが部屋とシャワー室にそれぞれひとつずつ。ベッドには分厚い掛け布団が乗っていて、タンスには毛布まで用意されていた。1日前までエアコンを付けっぱなしで寝ていたのに、今度はヒーターを付けっぱなしで寝るというのは、なかなか体験できない不思議な感覚だった。
木曜日になっても、スパ-フランコルシャンの空はねずみ色。プレスルームへ行くと、FIAのモニターには「気温14℃」と表示されていた。寒いわけである。新居章年テクニカルコーディネーション担当ディレクターによれば、週末のスパ-フランコルシャンはずっと同じようなコンディションで、気温は13℃から18℃。降水確率は30%から50%だという。プレスルームの識者によれば、「スパ-フランコルシャンで24時間一滴も雨が降らない日は、年間30日ほどしかない」というから、30%から50%とう降水確率は、「間違いなく、雨が降る」と思っていていいパーセンテージなのだろう。
木曜日から震えながらの取材を強いられたが、金曜日以降、雨が降れば体感温度はさらに寒くなるだろう。それでも、やっぱりスパ-フランコルシャンは、冷たい雨が似合う。そして、それを期待しながら、毛布を上乗せされたベッドに入るベルギーGP前夜だった。
次回、GP Diaryは9月5日に更新の予定です。
お楽しみに。
深夜のエキゾースト
2008年9月5日
金曜日、夜9時を過ぎたスパ-フランコルシャン・サーキットは、フリー走行2回目終了直後から本格的に降り出した雨が、なおも雨脚を強くして降り続いていた。その雨音をかき消すように、ときどき2.4リッターV8のエキゾーストノートが、アルデンヌの森にこだました。
現在レギュレーションではエンジンは2グランプリ連続で使用しなければならない。しかし、それは土曜日と日曜日に限ったことで、金曜日は当てはまらない。前のグランプリの金曜日に使用したエンジンを数戦連続で使用したり、テストで使用したものをレースカーに搭載して金曜日のフリー走行を走行している。そのため、金曜日のセッションが終了すると、各チームのメカニックたちはエンジンをモノコックから外し、予選&レース用エンジンに積み替えるのである。そして、エンジンを交換したメカニックたちが最後に行う作業が、ファイアアップ。つまり、モノコックに組み付けたエンジンに火を入れ、実際に始動するかどうかを確認するのである。
通常であれば、ファイアアップはエンジンの積み替え作業が終わる夕方に行われるため、まだ大勢のジャーナリストで賑わっているプレスルームではその音は気にならないほど小さい。ところが、5人以下となった金曜日の夜10時過ぎとなると、その音はV8とは思えないほど甲高く聞こえる。
そしてボクは考えた。「こんなに遅く聞こえるということは、みんなかなりセッティングで悩んでいるな」と。
ファイアアップは金曜日の最後の作業。エンジン交換自体は早く済んでいても、セッティング変更が終わらないと、エンジンを始動させることはできない。ベルギーGP初日はフリー走行1回目から小雨がぱらつく生憎のコンディションだった。さらに2回目のフリー走行では赤旗も出た。その間にまた雨が降り、路面コンディションは常に変化する難しいコンディション。そのうえ、今週末は典型的なスパーウェザーが予想され、空模様が一定しない。どのチームも土曜日以降に向けて、どのようなセッティングで行くか、なかなか決めあぐねていたのではないかと思うのだった。
初日、9番手と14番手に終わったパナソニック・トヨタ・レーシング。どんな変更を加えたのか、土曜日の予選を待つことにしよう。
次回は9月6日に更新の予定です。
お楽しみに。
ラディヨン
2008年9月6日
スパといえば、オー・ルージュが有名である。多くのドライバーやレース関係者が「もっともチャレンジングなコーナー」だと語っている。しかし、一般の人たちが想像しているオー・ルージュと、ドライバーたちが指摘しているオー・ルージュが異なっている場合がよくある。
そもそもフランス語で「赤い水」という意味を持つオー・ルージュとは、1コーナーの「ラ・ソース」から下っていった先にある一番低い地点のことを指す。コーナー番号でいうと、2コーナーがオー・ルージュ。ちょうどその下に小川が流れており、その湧き水に温泉の成分が含まれているからだろうか、川底の石が褐色に変色している。そのことから、人々が「オー・ルージュ(赤い水)」と呼ぶようになったのが、コーナー名の語源だと聞いた。
コースはそのオー・ルージュから一気に上り坂となり、クルマはその瞬間、車体の底を地面に打ち付ける。現在はスキッドブロックがあるため、火花はほとんど散らなくなった。しかし、あれほどおびただしい量の黄土色の煙がディフューザーを通して後方へ吹き出るのは、このオー・ルージュだけである。下り坂を走行しているドライバーにとって、目の前に迫った上り坂はまるで崖のようにそびえ立って見えることから、ドライバーはオー・ルージュがもっともチャレンジングなコーナーだと言うのである。
しかし一般のファン、中にはレース関係者ですら、オー・ルージュが「崖のような坂」の部分であるかのように使っている場合がある。例えば、「オー・ルージュを上って」とか、「オー・ルージュを駆け上がる」という使い方である。オー・ルージュとはもっとも低い地点だけを指し、そこからの上り坂には「ラディヨン」という別の名前がきちんとつけられている。コーナー番号でいうと3コーナーから4コーナーにかけてが、そうだ。
「ラディヨン」とはフランス語で「Radillon」(急な上り坂)という意味である。したがって、「空しか見えないオー・ルージュを全開で駆け上がる」という使い方は間違っており、正確には「そびえ立つ崖の手前にあるオー・ルージュへ向かって全開で突っ込んでいくのは勇気がいる。さらに一気に駆け上がり空しか見えないラディヨンでもアクセルから足を離さないで、右・左とステアリングを切りながら、全開で行くのは本当にチャレンジングである」というのが、正しい。
ドライコンディションでもチャレンジングなラディヨン。それが雨だったり、路面が少しでも濡れているのなら、さらに勇気が問われるコーナーとなるのは、想像に難しくない。金曜から2日間連続でウエットコンディションとなった今年のスパ-フランコルシャン。日曜日の予報でも、空模様は不安定のまま。勇気が問われる一戦となりそうだ。
次回は9月7日に更新の予定です。
お楽しみに。
ペナルティ
2008年9月7日
ドラマは、レース後に始まった。
最初のドラマは、レースが終了して約1時間後の16時35分だった。それは、ファイナルラップでマーク・ウェバー(レッドブル)をオーバーテイクし、8位入賞を果たしたティモ・グロックに訪れた。レース審議委員会に呼び出しを受けたティモを待っていたのは、「黄旗無視」という裁定。2周前の43周目にクラッシュしたキミ・ライコネン(フェラーリ)。そのクルマが止まっていたブランシモン・コーナー手前で、黄旗が出ていたのである。
レース後のブリーフィングでティモは「そのことに注意して、最終シケインで抜いた」とエンジニアに語っていたが、レース審議委員会はその主張を認めなかった。現在のF1は、GPS装置などを利用したマーシャリングシステムによって、F1カーの位置が監視されている。レース審議委員会の裁定は「レース結果に25秒加算する」というものだった。
これでウェバーをコンマ7秒差押さえてフィニッシュしたグロックは、逆に24秒後方の9位に降格。約1時間で1ポイントが消滅した。
それから1時間後の17時35分。もうひとつのドラマは、優勝したルイス・ハミルトン(マクラーレン)に訪れた。すでにレース終了直前にレース審議委員会から「審議中」という警告が出されていたハミルトンに、レース後に下された裁定は「ドライブスルー・ペナルティ」だった。ただし、すでにレースが終了していたため、「レース結果に25秒を加算」されるのである。
ペナルティが科せられた理由は、「シケインのショートカットとそれによってアドバンテージを得たため」だというのが、レース審議委員会の決定だった。呼び出されたハミルトンは、17時55分にレース審議委員会の決定に署名。これを受けて、競技長が18時に優勝フェリペ・マッサ(フェラーリ)、2位ニック・ハイドフェルト(BMWザウバー)、3位ハミルトン、4位フェルナンド・アロンソ(ルノー)、5位セバスチャン・フェッテル(トロ・ロッソ)、6位ロバート・クビカ(BMWザウバー)、7位セバスチャン・ブルデー(トロ・ロッソ)、8位ウェバー、そして9位グロックという暫定結果を発表。それから30分後の18時30分に、暫定結果を正式結果とするのである。
フェラーリのモーターホームでは急きょ代表のステファノ・ドメニカリが優勝会見を開き、斜め向かいのマクラーレンのブランドセンター内は、重苦しい空気に包まれることとなった。そして25分後の18時55分、マクラーレンが国際控訴裁判所に、ベルギーGPのレース審議委員会の決定を不服として提訴したことを発表する。
「今日のレースで学んだことは、レースは最後までわからない。いや、フィニッシュしても、まだわからないものだということだ」
フェラーリの記者会見で、ドメニカリ代表はそう語っていたが、マクラーレンの提訴によって、マッサの優勝すらもまだわからなくなった。そして、そのままの状況でF1は第14戦イタリアGPへ向かおうとしている。
次回は9月11日に更新の予定です。
お楽しみに。