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Rd.14 イタリアGP

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モンツァの森

2008年9月11日

ヨーロッパラウンド最終戦である。その舞台であるモンツァは、毎年重要な発表の場となってきた。

昨年は土曜日の朝10時に、ここで09年から鈴鹿サーキットで日本GPが復活することが発表された。その前の年は、皇帝ミハエル・シューマッハがレース後の優勝会見で現役引退を発表。その代わりにキミ・ライコネンの跳ね馬入りも発表された。普段は携帯での電話などしたことがないボクだが、最近は2年連続で、東京の通信会社に速報で出たリリースを手にしながら携帯電話しているほど、モンツァでは何かがある。

そのライコネンがフェラーリに移籍する前に所属していたマクラーレンに入ることを発表したのも、01年のイタリアGPである。それも、二代目フライング・フィンことミカ・ハッキネンがF1から退くことを発表したためだった。

ドライバーの移籍だけではない。かつて自動車メーカーのほとんどがエンジン供給でF1に参戦していた時代は、ここで翌年からのエンジンの供給先が発表されたことも少なくない。政治的な発表もモンツァでは数多く行われてきた。今年もFOTA(フォーミュラ・ワン・チームズ・アソシエーション)の初代チェアマンにフェラーリのルカ・ディ・モンテツェモーロが就任することが発表され、副会長にトヨタのジョン・ハウエットが就いている。

さて、イタリアGPといえば、モンツァの森に棲んでいる魔物のいたずらも有名である。現在も破られていない年間史上最高勝率を挙げたアラン・プロストとアイルトン・セナの黄金コンビで臨んだ88年のマクラーレンが、そのシーズンで唯一敗れたのがイタリアGP。しかも、トップ快走中のセナが周回遅れと1コーナーで接触するという信じられないアクシデントだった。

99年にトップを独走しながら、ハッキネンが単独スピンを喫したのも、モンツァの1コーナーである。優勝を逃したハッキネンは自分のミスに怒りを抑えることができず、ステアリングを投げつけ、グランドスタンド裏の森の中で泣き崩れたものだった。

今年のモンツァは、これまでのところFOTAの発表以外にドライバーの移籍に関するものは行われていないが、予断は許さない状況であることに変わりない。また週末のモンツァは土曜日と日曜日の降水確率が、ともに50%と高い。魔物がいつ顔を出しもおかしくはない。

次回は9月12日に更新の予定です。
お楽しみに。

レシオ

2008年9月12日

現在のF1はいつも以上に金曜日のセッションが重要となっている。というのも、今年からギアボックスを4イベント(レース)連続で使用することが義務づけられているからである。

この規定自体は金曜日には当てはまらないため、金曜日はどんなギアボックスを使用してもいい。そのため、前のレースで使用したギアボックスとは別の、そのサーキットに適したギアレシオを組み込んだものを搭載し、午前と午後の2回のフリー走行を走行する。そして、金曜日のフリー走行終了後に、4イベント連続で使用しなければならないギアボックスに積み替えるわけだが、このときギアレシオは1回だけに限って変更が許される。

このとき、各チームのエンジニアにとって判断すべき材料となるのが、金曜日のフリー走行で搭載したギアボックスのレシオでのデータである。さらに土曜日と日曜日の風向きと、そのスピードも考慮しておかなければならない。そして、もうひとつ重要な要素となるのが、空力のセッティングである。フロントとリアのウイングの角度というのは、ダウンフォースと同じく車速にも大きな影響を与える。それは、つまりギアレシオとも密接に関係していることを意味する。

例えば、前戦ベルギーGPの予選でパナソニック・トヨタ・レーシングの2人が失速したのは、土曜日に向けてのセッティングを、タイヤの温まりを優先したいためにウイングを立てダウンフォースを付け気味にしたからだった。ところが、それでもフリー走行3回目ではタイヤの温まりは悪く、ターゲットにしていたセクター2のスピードも伸びない。ならば、長いストレートでのトップスピードを上げるためにウイングを寝かせたかったが、すでにギアレシオは組み直したものが搭載されており、いまさら空力だけでトップスピードを稼ごうとしても、リミッターに当たってしまうだけだったのである。

イタリアはいわずと知れた超高速コース。空力のセッティングはほかのサーキット以上に重要である。しかし、それを生かすも殺すも、空力レベルに合わせたギアレシオをきちんと組み込むことにかかっている。それにはどんなセッティングにするかを決めなければならない。そして、それを行うのが金曜日の夜。フリー走行できちんとプログラムを消化できていれば、それも悩まないのだが、イタリアGP初日最初のセッションはあいにくの雨。さらに土曜日以降の天候も不安定である。

今年のモンツァは、いつも以上に難しい選択を迫られそうである。

次回は9月13日に更新の予定です。
お楽しみに。

波乱

2008年9月13日

F1史上最年少のポールシッターが誕生した。そして、それを演出したのがモンツァの季節外れの冷たい雨と、その中でのタイヤの使い方だった。

例えば、第1セッションである。20台がいっせいにコースインし、連続してタイムアタックを続けるというシーンは、ウエットコンディションでなければ見ることはなかっただろう。そんな第1セッションで興味深かったのは、約10周を連続して行うドライバーと、途中でピットインするドライバーの2パターンあったことだ。連続して周回した者には「タイヤの熱を維持したままタイムアタックを続けることができる」(中嶋一貴)というメリットがある反面、「10周以上走行することでタイヤ表面が削れたり、雨水がはじき出されてやや乾いた路面でオーバーヒートを起こしていた」(ブリヂストン/松崎淳チーフエンジニア)というデメリットもあった。イタリアGPの予選が第1セッションから、やや波乱に満ちた展開となったのは、こういった各チームの対応に違いがあったからだと思われる。

さらに第2セッションでは、タイトル争いでトップに立っているルイス・ハミルトン(マクラーレン)と、そのハミルトンと前戦激しいバトルを展開したキミ・ライコネン(フェラーリ)が、それぞれ15位と14位に終わり、まさかの脱落となった。昨年F1にステップアップしてきたハミルトンが、第3セッションに進出できなかったのは初めてのこと。そして、2人がそろって予選でトップ10を逃したのも初めて。そんな大波乱の原因を作ったのも、タイヤの使い方だったと松崎エンジニアは説明する。

「ハミルトンが第2セッションの最初にスタンダードウエット(浅溝)タイヤを選択したのは、決して間違いではなかった。むしろ、彼のドライビングスタイルとその直前の路面コンディションなら、もっとも適した選択だったと思います。それがうまく行かなかったのは、出るタイミングを逸したから。彼がコースインした直後から雨が強くなり出し、再びエクストリームウエット(深溝)タイヤ向きのコンディションとなりました」(松崎エンジニア)

これと同じ状況に陥ったのが、ライコネンだった。

「ライコネンは最初からエクストリームウェット(深溝)タイヤで第2セッションのタイムアタックに出ていましたが、アウトラップで前に他車がいたためでしょうか、十分にタイヤに熱を入れることができずに苦しみました。ウエットタイヤはドライタイヤとは異なり、最初に熱を入れることができないと、ずっと冷えたままになることがあるんです。だから、ウエットコンディションの予選では先にコースインし、自分のペースでアウトラップを走ることが重要になることが少なくないんですね」(松崎エンジニア)

もちろん、このほかにもセッティングの違いが今回のイタリアGPでの波乱を演出したことは言うまでもない。ドライコンディションが予想される日曜日のモンツァでは、どんなドラマが待っているのだろうか。

次回は9月14日に更新の予定です。
お楽しみに。

選択

2008年9月14日

1ストップ作戦も可能な燃料を搭載してスタートしたパナソニック・トヨタ・レーシングの2台。すでに何台かのクルマがピットインしており、いずれもスタート時に装着したものと同じエクストリームウエット(深溝)タイヤに交換していた。その最初で最後のピットストップが近づていく中、2人のドライバーとピットウォールの間では、ピットイン時に装着するタイヤについてのやりとりが交わされていた。

そしてドライバーは2人とも、それまで装着していたタイヤと同じエクストリームウエットを希望。チームも最新の天気予報から、小雨がレース中にもう一度訪れると判断し、まず25周目にピットインしてきたティモ・グロックにエクストリームウェットを装着する。一方、ヤルノ・トゥルーリのエンジニアは、翌周入る予定のヤルノ・トゥルーリに再度無線で確認を行う。

ヤルノからの返事は「スタンダードウエットで走るのは、まだまだ無理なコンディションだから、もう1回エクストリームウエットを履く」というものだった。

しかし、その後のコンディションはパナソニック・トヨタ・レーシングが望んでいた方向には進まなかった。訪れるべき雨は来ず、路面が乾きだしていったのである。結果だけを見れば、トヨタが下した判断は失敗に終わる。ただし、同じような作戦を採り、同じように天気予報を読み違えていたドライバーが、トヨタ以外にも数名いたことを考えれば、トヨタが下した選択を「ミス」とは言い切れない部分もある。

このレースを見ていて思い出したのが、05年のベルギーGPである。乾くようで乾かない、かといって激しい雨が降る完全なウエットコンディションというわけでもない。気温が低く、小雨が不定期に降る中、3年前のパナソニック・トヨタ・レーシングは一時、スパ-フランコルシャンで2番手を走行していた。そして、迎えたピットストップでチームはギャンブルに出る。ウエットからドライにスイッチしたチームの判断は、しかし裏目に出るのである。

上位陣が続々と脱落していった土曜日の予選で、パナソニック・トヨタ・レーシングはややダウンフォースを重めに設定し、2台そろってトップ10内に進出することができた。さらにウエットコンディションでスタートした日曜日のレース。水しぶきが上がるレース序盤のヤルノは、フェラーリのフェリペ・マッサと同じペースで周回できるほど安定して速く、ティモもフェルナンド・アロンソ(ルノー)とロバート・クビカ(BMWザウバー)に明け渡したポジションを奪い返すほどのスピードを持ち合わせていた。

エクストリームのままか、スタンダードか――二者択一を迫られたドライバーとチームに、よりアドバンテージが得られる前者を選ぶ気持ちが強かったとしても、不思議はない。

次回は9月19日に更新の予定です。
お楽しみに。

Possible

2008年9月19日

2週間連続で開催された今年のヨーロッパラウンド最終戦の週末は、6日間あったグランプリ期間のうち、5日間が雨。その秋の長雨にたたられたヨーロッパから帰ってきた今週末は、日本も雨。屋根を叩く雨音を聞きながら、モンツァで起きた奇跡のことを考えた。

これまで初優勝のドライバーが勝つときは、1)優勝したチームに所属しているか、2)トップチームのドライバーがリタイアするような荒れた展開のレースというのが常だった。今年でいえば、ヘイキ・コバライネンは上記の2つに当てはまり、ロバート・クビカは2番目の項目が適用される。

またチームが初優勝を遂げるときというのは、すでに優勝を経験しているドライバーによって、その栄冠がもたらされてきたものである。99年のスチュワートはジョニー・ハーバートによって、98年のジョーダンはデーモン・ヒルによって、栄光のチェッカーフラッグを受けることができた。

しかし先日のモンツァでは、いままで勝ったことがないドライバーが、優勝したこともないチームから、しかもトップチームのドライバーがリタイアするというアクシデントもない状況で、初優勝を飾ったのである。それは、過去の歴史を振り返れば、奇跡以外の何物でもない事象だった。しかし、結果にはすべて理由があり、それを分析していくと、どの奇跡も単なる偶然ではなく、そこに必然性が隠されていることも事実だ。つまり、セバスチャン・フェッテルはあの週末、勝つべきして勝ったのである。

理由は3つある。ひとつは予選だ。フェッテルがポールポジションを獲ったとき、だれもがフェッテルはウエットセッティングだったと勘ぐったはずである。ところが、レース後の会見で本人が語っているようにクルマはドライセッティングだった。その証拠に、予選では各セクターの最高速で3カ所ともフェッテルがトップスピードを記録していた。

では、なぜフェッテルはドライセッティングで予選を速く走ることができたのか。それが2つめの理由だ。フェッテルは常に早めにコースインし、タイムアタックを行っていた。第1セッションは後半に雨が弱まったものの、第2セッションは時間が経てば経つほど雨量が増えるという状況の中で、フェッテルはベストなタイミングでアタックを行っていた。逆に待機作戦が裏目に出たのがキミ・ライコネン(フェラーリ)とルイス・ハミルトン(マクラーレン)。特に第2セッション1回目のアタックでウエットセッティングを施し、スタンダードウエット(浅溝)タイヤを履いたハミルトンが、もっと早くアタックに出ていれば、その後の予選の展開は変わっていたかもしれない。第3セッションの好走は、燃料搭載量に因るところが大きかったと思われる。

ところが、「レースはドライで行われるだろうから、ドライセッティングにしていた」というフェッテルの思惑とは裏腹に、日曜日もモンツァは雨。そこで3つめの理由である。それは、ウエットレースでは、天候が大きく変化しない限り、先頭を走るドライバーが圧倒的に有利だということだ。ウエットレースではダウンフォースの量やどちらのタイヤを履くかということも大切だが、何よりドライバーの視界がラップタイムに大きな影響を与える。それはセーフティカーランが解除された3周目のラップタイムを見るとわかる。トップのフェッテルと2番手のコバライネンの差は1.4秒もある。昨年のイタリアGPもスタート直後にセーフティカーが出動し、7周目にレースが再開されているが、そのときのトップと2番手の差はわずかコンマ3秒だった。つまり、それがドライセッティングのフェッテルが、1周1秒以上速いペースでコバライネン以下の強豪を序盤で突き放せた大きな理由だった。

ウエットだといろいろな状況に対応しやすいように、燃料を重めにしておくのが常套手段なのだが、みんなと同じ作戦を取っていても勝てない。フェッテルとトロ・ロッソは、結果的に予想が外れたものの、だれも考えなかったモンツァでのショートスティント作戦を土曜日に敷いたために、結果的に相手の裏をかくことができたのではないだろうか。

もちろん、そのほかにも昨年の富士、中国、そして今年のモナコと、路面のミューが低いサーキットでレッドブルとトロ・ロッソのクルマが好成績を残しているように、クルマ自体が雨に強いという特徴があることも見逃せない。しかし、いずれにしてもトロ・ロッソの前身であるミナルディのファクトリーがあるファエンツァに、3年前に取材に行ったボクにとっては、この優勝は格別のものがあった。

そして、あらためて思ったことは、この世界に不可能はないということだ。そして、それはトロ・ロッソに限った話でもなく、ヨーロッパラウンドに限った話でもない。イタリアのチームが地元で奇跡を起こしたように、日本のチーム、あるいは日本人がアジアラウンドで奇跡を起こすこともまた、不可能ではないとボクは思っている。

次回は9月25日(木)に更新の予定です。
お楽しみに!