マリーナベイ・サーキット
2008年9月25日
「2004年以降、われわれは新しい開催地を何箇所か経験しており、ほとんどの場合では、すべてが順調に運んでいる。新しいコースにチャレンジすることには慣れているので、それに関しては心配していない」
これはパナソニック・トヨタ・レーシングのシャシー部門シニア・ゼネラル・マネージャーであるパスカル・バセロンの、シンガポールGP直前のコメントである。04年以降の新しい開催地でのグランプリは全部で5つあった。バーレーンGP、中国GP、トルコGP、そして昨年、富士スピードウェイで行われた日本GPと、今年8月のバレンシアでのヨーロッパGPである。
このうち、不振のシーズンとなった04年のバーレーンと中国、そして雨にたたられた昨年の日本GPを除く、イスタンブール・パーク・サーキットとバレンシア・ストリート・サーキットの2つのレースで、トヨタはいずれも入賞を果たしている。それが、初開催のシンガポールGPに向けてバセロンが自信を覗かせる、1つめの理由である。
もうひとつ、バセロンには、このグランプリに対して自信を抱く理由がある。それはコースのレイアウトだ。
「われわれはシンガポールのレイアウトを研究しており、ここが高ダウンフォースのサーキットであると結論づける、他コースとの類似点を見つけた。そのため、われわれは空力セットアップに関して、どう対処すべきかわかっており、空力パッケージに1、2箇所の調整を行った。TF108はシンガポールのコースの特性に合うと予測している」
シンガポールGPの開催されるサーキットの名称は「シンガポール・ストリート・マリーナベイ・サーキット」。その名の通り、コースは港に面した市街地サーキットである。今シーズンここまでのハイダウンフォース・サーキットで行われたグランプリは3つ。モナコ、ハンガロリンク、バレンシアだ。このうち雨のモナコ以外は、ハンガロリンクでティモ・グロックが表彰台を獲得し、バレンシアはヤルノ・トゥルーリが5位、ティモが7位とダブル入賞している。
そしてバセロンのコメントは、次のようなコメントで締めくくられている。
「皆がこのレースを非常に楽しみにしており、われわれには高い望みがある」
同感である。
次回は9月26日に更新の予定です。
お楽しみに。
夜型
2008年9月26日
23:40 中嶋一貴(ウイリアムズ)
00:20 ホンダ/中本修平マネジングディレクター補佐
00:30 トヨタ/新居章年テクニカルコーディネーション担当ディレクター
00:45 ブリヂストン/浜島裕英MS・MCタイヤ開発本部長
これはシンガポールGP初日のセッション後に行われた、日本人記者向けの囲み会見の時間である。
F1史上初のナイトセッション。ヨーロッパのテレビ中継を意識したこの時間帯は、アジアにいながら、ヨーロッパ時間に体内時計を合わせるという「逆時差」現象を生んでいる。例えば、一貴選手に「明日の起床時間は?」と尋ねたら、「午後2時」と返ってきた。確かにスタート時間が通常より6時間遅れるシンガポールGP。すべてを6時間遅らせると、いつも朝8時に起きている者は午後2時が起床時間ということになる。
しかし人間の生活というのは、時計の針を回せばオートマチックに変えられるほど簡単なものではない。例えば、午後2時まで寝ていようと思っても、ホテルのハウスキーピングが部屋のドアをノックしてくることもある。またいつもなら、朝起きて、すぐにホテル内で朝食を食べられたのが、午後2時では外に出ても、ランチすら終わっている時間。今日のボクは結局、朝食と昼食抜きでプレスルームまで来てしまった。
起きる時間だけではない。寝る時間だって、6時間遅らせる必要がある。しかし、夜の12時に寝ているからといって、朝6時まで起きているのは、精神的につらいものがある。ボクはこういう仕事をしていることもあって、基本的に夜型だし、不規則な生活には慣れているほうだが、今回は勝手が違う。寝ていても熟睡できないし、仕事中何度もあくびしてしまう。
初日からこんな感じということは、肉体的な疲労は土曜日から日曜日にかけてピークに達するものと考えられる。F1史上初のナイトイベントであるシンガポールGP。これまで行わなかったのは、肉体的には結構つらいイベントだったからではないだろうかということを、朝方4時にプレスルームであくびをしながら考えたシンガポールGP初日だった。
次回は9月27日に更新の予定です。
お楽しみに。
特異
2008年9月27日
マリーナベイ・ストリート・サーキットを木曜日に下見していて、驚いたことが2つある。1つは10コーナーの縁石である(写真左)。ウインナーソーセージをつなげたような出っ張りを持つ縁石を見たときは、ビックリ。思わずシャッターを何度も押したものである。
この縁石はシケインに設けられており、通常であればクルマが乗り上がるような部分に設置されている。そのため、もし誤ってクルマがこの縁石に乗り上げるとバランスを大きく崩すだけでなく、クルマの車体底部を痛める可能性があるな、と心配していた。そして、土曜日のフリー走行でその餌食となったのが、ジャンカルロ・フィジケラ(フォース・インディア)だった。
シケインの形状はグランプリ直前に改修されたという報道もあるが、少なくとも土曜日まではなんら変更が加えられていない。ちなみにシンガポールの縁石は10コーナー以外のものも、ほかのサーキットでは見られない亀の甲羅のような鋭角な形状をしており、自称「縁石学者」のボクにとっては「新種発見」の貴重なサーキットとなった。
もう一つ驚いたことは、ピットの入口である。正確にはピットへ導入するための白線が最終コーナー2つ手前から伸びていることである(写真右)。これはピットインするクルマを早めに内側にズラして、追突を避けるという狙いから引かれた白線だと思われる。しかし、最終コーナー2つ手前からイン側をキープしてピットインするためには2速にギアをシフトダウンして白線の中に入っていかないと曲がりきれず、それではかえってその手前で速度がでてしまって追突する原因となるとの理由から、金曜日のドライバーズミーティングで修正案が出されて変更された。
それによれば、最終コーナー2つ手前の白線は残すが、その白線はその先で消え、ピットインするクルマは一度外側にはみ出してからピット入口に向かっても良いということだ。しかし、それではピットインするクルマと本コースを走行するクルマのラインが最終コーナーで交じり合う可能性があると心配したドライバーもいたが、土曜日の予選ではそれが現実のものとなった。ルーベンス・バリチェロとニック・ハイドフェルトが交錯しそうになるのである。
これによって、予選6番手だったハイドフェルトが3番手降格のペナルティを受け、9番手に後退。予選8位だったティモ・グロックは1つ上がって7番手からスタートする予定となっている。
史上初のナイトレース。カクテル光線に照らされたマリーナベイ・ストリート・サーキットは、暗闇よりもこの2つの特異な形状のほうが、ドライバーたちにとっては怖い存在ではないだろうか。
次回は9月28日に更新の予定です。
お楽しみに。
Good Night
2008年9月28日
結局、金曜日から3日間連続で早朝5時までプレスルームで仕事をしてしまった。さすがに日曜日はボクがプレスルームを出る段階で、まだ10名以上のプレスが残っていたが、金曜日と土曜日はボクのほかに残っていたのは数名で、いつもボクと同じようにプレスルームで遅くまで仕事をしているブラジル人とフランス人のジャーナリストだった。そのいつもの仲間たちの間で、今週末のシンガポールGPで流行ったあいさつが「See you today」だった。いつもなら、「See you tomorrow(また明日)」となるのだが、日付が超えてからプレスルームを後にし、約12時間後にプレスルームで再会するするわれわれは、明日ではなく、今日再会することとなる。一日の疲れを冗談を言って吹き飛ばしていたわけだ。
確かにいつもと違うリズムで仕事をしたシンガポールGPは、いつもにも増して疲れが溜まった週末となった。しかし、いつもとは違うものを見ることができたという点では、興味深いグランプリでもあった。
例えば、ドライバーの視線である。昼間に太陽の下を走行するドライバーのヘルメットのバイザーは、通常太陽の光がまぶしくないような処理が施されている。そのため、ドライバーの目を外から見ることはできない。ところが、光度が低いナイトセッションでは、多くのドライバーが外からヘルメットの中が透けて見えるクリアタイプのバイザーを使用していた。ほとんど瞬きしないで走るドライバーのオンボード映像には、ボクも思わず息を止めてしまった。
もうひとつ、夜のシンガポールで光って見えたのが、パナソニック・トヨタ・レーシングのサインボードだった。サーキットの照明は基本的にはコースを照らしている。ホームストレートではアウト側、つまりグラウンドスタンド側に照明装置が固定されていた。またピットストップ作業を行うピットレーン側はピットビルディングの上に照明が設置されている。つまり、ピットウォールの上には照明装置がないのである。
もちろん、コースの反対側に設置された照明はコース全体を照らすほど強力なものなので、ピットウォールが真っ暗闇というわけではない。しかし、アクセル全開で立ち上がってきたドライバーにとっては、若干暗いだけでなく、ピットビルディング側の照明を受けて影になるピットウォールから出される自分のサインボードを探すのは簡単なことではない。
そこでパナソニック・トヨタ・レーシングは、通常のサインボードにライトを付けた特別仕様をシンガポールに持ち込んでいた。新しい発見をしたシンガポールの週末だった。
次回は10月3日に更新の予定です。
お楽しみに。