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Rd.07 トルコGP

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1カ月

2009年6月5日

モナコで失速したパナソニック・トヨタ・レーシング。その原因は主に足回りにあると思われるが、空力に関してもTF109は必ずしも万全ではなかった。

2週間前のグランプリに、チームは新しいフロントウイングを用意。それに合わせたリアウイングも準備していた。しかし、その新しいウイングは時間の関係から通常の工程で製造されたものではなかった。F1のエアロダイナミクスパーツのほとんどは、軽量かつ強度が高いカーボンファイバー製である。

モナコに持ち込まれたパナソニック・トヨタ・レーシングの新しいフロントウイングも、もちろんカーボンファイバー製だった。しかし、その新ウイングの一部にカーボンファイバー以外で造形された箇所があったのだ。それは翌端板の外側に立てられた小型フェンスだった。

通常の工程で作ることもできたが、それだとモナコGPに間に合わない。そこでチームはリスクを覚悟で、風洞実験用の2分の1スケールのモデルカーに付けるパーツと同じ材料で実車の空力パーツを作ったのだ。しかし、それが木曜日のフリー走行後、ダメージが出ていることが確認されてしまう。1台だけだったが、チームは安全性を考慮して、新フロントウイングの投入を断念。リアウイングも従来型に戻して戦わざるを得なかった。

そして、迎えたトルコGP。パナソニック・トヨタ・レーシングはモナコでお蔵入りとなった新ウイングを持ち込み、金曜日のフリー走行をトラブルフリーで走り終えた。今回トヨタがイスタンブール・パーク・サーキットに持ち込んだ新しいフロントウイングは3枚フラップ。スペインGPで初めてフリー走行に投入されるも、セットアップが定まらずに予選とレースへの投入は断念したものだ。それを進化させた改良版は信頼性の問題から、モナコでも予選とレースに使用することはなかった。

つまり、この1カ月間、パナソニック・トヨタ・レーシングはエアロダイナミクス的にはほとんど停滞したパッケージで戦っていたことになる。それでは望みうる結果がつかめないのは、当然だろう。

多くのチームがバルセロナでアップデートしてきたが、今回のイスタンブールにもほとんどのチームが改良したエアロダイナミクス・パッケージで臨んできている。最悪だったモナコの状況を考慮すれば、初日の出来は上々かもしれない。しかし、もし5月にもう少し空力を進化させることに成功していれば、ブラウンがクルマのバランスに手を焼き、レッドブルがトラブルに見舞われている今回のトルコGPで、パナソニック・トヨタ・レーシングは優勝争いの筆頭に躍り出ていたのではないか……。そう思うだけに、残念な気持ちのほうが強い。

だが、振り返っても、時間を取り戻すことはできない。開発の遅れはコース上で取り戻すしかない。混戦模様が予想される土曜日の予選は、これまで以上にしっかりとした戦略を立てることが必要だろう。さらに、2人のドライバーにもミスのない走りが要求される。チーム全員のパフォーマンスに期待したい。

次回は6月6日に更新の予定です。
お楽しみに。

Good choice

2009年6月6日

予選後、「これでようやくモナコの悪夢が吹っ切れた」と、あるパナソニック・トヨタ・レーシングのエンジニアは語ってくれた。そしてボクの心の中では、モナコだけでなく、バーレーンの悪夢が吹き払われた予選だった。

予選では軟らかいタイヤを使い、レースで硬いタイヤをメインに使用する。これが通常のタイヤの使い分けである。しかし、トルコGPの予選ではハードタイヤをメインにしてアタックを行っていたチーム、およびドライバーが見受けられた。なぜか? それは今年のブリヂストンには、2つの異なる作動温度領域が存在しているからである。作動温度領域が低いのがスーパーソフトとソフト、高いのがミディアムとハードである。

今回、トルコGPに持ち込まれたタイヤは、ソフトとハード。コンパウンドだけを比較すれば、もちろんソフトのほうが軟らかいからグリップ力も強い。ところがソフトタイヤの作動温度領域は路面温度が20℃から30℃。35℃を超える高温状態ではタイヤが正常にパフォーマンスせず、ハードを装着したほうが速く走ることができる。

土曜日、午後2時の路面温度は47℃。ハードタイヤに向いたコンディションだった。ボクはパナソニック・トヨタ・レーシングがどちらのタイヤを装着するのか、気になった。というのも、第4戦バーレーンGPのレースで、彼らは保守的なタイヤ選択を行って、1回目のピットストップで硬い方のタイヤを選択していたからだった。そして、今回のトルコGPも金曜日のフリー走行後に「どちらのタイヤで予選を戦うか難しい」(新居章年テクニカルコーディネーション担当ディレクター)と悩んでいた。

今回のトルコGPの場合、保守的な選択とは予選でも安定したアタックができるハードタイヤを装着することである。通常なら、軟らかいほうのタイヤを積極的に注ぎ込んでくる予選Q1。しかし、ほとんどのドライバーが最初はまずハードを使用し、2回目もハードに履き替えていた。

ところが、ここで状況が急変する。全車ニュータイヤを装着してタイムアタックを行っていたため、路面コンディションが変わったのだ。路面温度は相変わらず高かったものの、路面のグリップ力に助けられて、1周だけならギリギリでソフトタイヤのほうが速いラップを刻めるという現象が生じるのである。ただし、ドライバーによってはクルマのバランスがオーバーステア気味となるソフトタイヤは運転しづらい。そこで大切になってくるのが、エンジニアリングである。

チームによっては安定感のあるハードにこだわって、タイムを更新できないというシーンが見られた。それは、イギリスの名門チームである。ボクはトヨタもハードを装着するのではないかと考えていたが、彼らは悩んだ末にQ2とQ3での勝負タイヤにソフトを選択する。

路面温度とその上に乗ったラバー、そしてライバルチームが装着したタイヤと、そのタイヤでのセクターごとのラップタイムを見比べながら、自分たちが次にどちらのタイヤでアタックするか――今回のトルコGPの予選は非常にレベルの高いエンジニアリングが要求された一戦だった。その予選をトヨタのガレージ内で取材していたフジデレビのあるディレクターも、「あんなに緊張感が漂っていたトヨタを見たのは初めてだ」と語っていたほどである。

ヤルノがQ3の最後のアタックでハードからソフトに履き替えて失速した。そのため、あるトヨタのスタッフは「ハードのほうが良かったかなあ」とドライバーをかばっていた。しかし、ボクは今回の選択はこれで良かったと思う。ティモがQ2を通過できなかったのは残念だが、見応えのあるいい予選だった。

次回は6月9日に更新の予定です。
お楽しみに。

バージョン5

2009年6月9日

モナコGPの後、パナソニック・トヨタ・レーシングの首脳陣は、ある決断を下した。「次のグランプリでは、新しい空力パーツを使う」

無得点に終わったスペインGPとモナコGP。さまざまな原因が挙げられた中で、2つのグランプリに共通している点があった。それは新しい空力パーツを持ち込んで、金曜日に比較テストを行っていたことだ。スペインGPでは比較テストの結果、「新パーツに合わせたセットアップに不安がある」という理由からレースへの投入は見送られた。モナコGPでは性能向上の確認が取れたものの、信頼性に問題が発生したためにやむなく使用を断念した。

新しいパーツを装着して走行していたにもかかわらず、その使用をやめるということは、単に進化した空力パーツでのパフォーマンスアップが得られないという問題だけにとどまらない。従来型のパーツでの走行時間が限られるため、サーキットに合わせたセットアップが十分に行えないという、別の問題も発生させることになる。

1(基本性能)+1(新パーツの性能)-1(新パーツの性能)=1(基本性能)にはならず、1(基本性能)よりも低い数字になってしまうことがある。スペインやモナコの失速は、じつはこういった問題が根底にあったのではないかと思っている。

いずれにしてもチームは、3度同じ失敗は繰り返してはならないと、トルコGP直前に空力のテストを行った。今シーズンからレギュレーションでテストは禁止されたが、直線コースまたは一定のRだけのコースを使用した空力テストは、年間8日間だけ許されている。そのうちの2日間を今回、パナソニック・トヨタ・レーシングは使用したのである。

場所は、TMGからクルマで1時間ほどのところにあるベルギーのロンメル。フォードが所有するヨーロッパで最大級のテストコースを借りて、朝から晩まで、ひたすらコースのストレート部分を往復していたという。ドライバーはテストドライバーの小林可夢偉。パーツを交換しながら、さらに車高もさまざまに変えながら行うエアロダイナミクステストは、車速を一定にして走らなければならないため、ドライバーにとっては非常に退屈な作業だ。しかし、可夢偉は文句一つ言わず、2日間のテストをこなした。

このテストで風洞実験の性能を確認できたチームは、イスタンブール・パーク・サーキットに自信を持って新しい空力パッケージを持ち込み、金曜日の走り始めから使用。その中には、前後のウイングとともに、一新されたディフューザーも含まれていた。中国GPから使用していたものがバージョン4だから、今回トルコGPに投入されたものはバージョン5となる。序盤戦でこれだけのディフューザーが開発されたシーズンを、ボクは記憶していない。

トルコGPの結果は、投入された新パッケージの性能を確認できたというだけでなく、今後の開発の道筋をつけたという点でも成果があったのではないだろうか。今度はどんなパーツが登場してくるのか。2週間後のシルバーストーンが待ち遠しい。

次回は6月19日に更新の予定です。
お楽しみに。